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感想文番号 |
著者 | 書名 | 刊行年 | 刊行国 | 出版社 |
| 2008080001 | アーサー・コナン・ドイル | シャーロック・ホームズの冒険 | 1892 | イギリス | 光文社文庫 |
評者:発起人 評価:9 読了日:2008/08/04 公開日:2008/08/07
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シャーロック・ホームズが大ブレイクした初の短編集 |
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第一長編『緋色の研究』(1887)、第二長編『四つの署名』(1890)で登場・活躍した名探偵シャーロック・ホームズとその友人・助手・記述者ワトスン博士のコンビだが、絶大な人気を獲得したのは雑誌『ストランド』に短編が連載されてからであった。1891年から翌年にかけて十二編のホームズものが同誌に掲載され単行本として出版されたのが本書『シャーロック・ホームズの冒険』(1892)である。 短編集であるからホームズが解決していく事件もさまざまである。中にはこれは犯罪じゃない、でも謎とその真相の推理・検証という点では立派なミステリだという作品もある。 背景にあるのは当時世界最強国家であった大英帝国とその首都・ロンドンである。繁栄と栄華を極めたこの世界帝国は当然構造的に巨大な暗部を抱えていたのである。世界中に植民地を持ち、強大な軍事力と経済・文化支配で富を集中させたのである。ロンドンは世界の首都であると同時に犯罪・腐敗の巣窟でもあったのだ。 名声高いホームズのところに持ち込まれる一見平凡そうに見える事件も背後にこのような構造がある。もちろんアーサー・コナン・ドイル(1859-1930)が意識してそのような構造を告発しようとしたわけではない。しかし後世の読者が読むとどす黒い霧に覆われたロンドンに隠れた邪悪なものをホームズが引きずり出していることがわかる。 前2作とは違って、ホームズは洗練されている。虚無的姿勢は影を潜め、その推理も円熟味を増している。こんな奴はいくら名探偵でもとても好きになれないなという鼻につくところは消えている。頼りになるスマートで人情も理解する名探偵という感じが前面に出てきている。ましてやコカインに耽溺するようなことはないのである。(事件のないときはまだやっているのかもしれないが・・・) ******************* 以下は全十二編の私自身のための覚書である: 「ボヘミアの醜聞」:依頼人はボヘミアの国王である。アイリーン・アドラーという歌手から二人が写っている写真を取り戻して欲しいという依頼である。ホームズは推理と行動でアイリーンから写真を取り戻す罠をしかけるが、相手はホームズより一枚上手だったのである! 「赤毛組合」:小さな質屋をやっているジェイベズ・ウィルスンが手に入れたサイドビジネスはなんとも奇妙なものだった。資格は赤毛であること、条件は決められた時間事務所にいて大英百科事典をaから書き写すという簡単なもので高賃金。この奇妙な仕事の裏にあるものをホームズが暴き出す。傑作。 「花婿の正体」:依頼人ミス・メアリー・サザーランドは結婚式当日に消えた花婿ホズマー・エンジェル氏を捜して欲しいという。事情を聞いたホームズは花婿のことは忘れなさいと言い渡す。そしてこの失踪事件の謎を解き明かすのだが・・・。ちょっとこれ、いくらなんでも、あり?>ホームズ様という感じ。 「ボスコム谷の謎」:イングランド西部ヘレフォード州にあるボスコム谷で起きた殺人事件。逮捕されたのは殺されたチャールズ・マッカーシーの息子ジェイムズ。状況証拠は圧倒的に不利である。ホームズとワトスンは現地に急行、ジェイムズの冤罪を見事証明するが真犯人は「見逃す」のである。ダイイング・メッセージあり、恋あり、植民地オーストラリアでの過去ありで面白い。 「オレンジの種五つ」:「謎の一部しか解明されず、・・・憶測や推量でしか説明のつかない事件」。背後にアメリカの人種差別団体K. K. K. (クー・クラックス・クラン)がいると思われる事件である。依頼人の青年はかつて父親がそうであったように「事故死」してしまう。犯罪者たちに同じ恐怖を味あわせようとするホームズだが・・・。 「唇のねじれた男」:アヘン窟で失踪した夫ネヴィル・シンクレアを捜す夫人の依頼で解決に乗り出したホームズ。アヘン窟にいた元水夫のインド人や乞食のヒュー・ブーンなど怪しげな人物が浮かぶ。ネヴィルは殺されたのか?ある意味現代的で意外な解決、でもそれぐらいホームズじゃなくてもわかるだろう、という気もする。 「青いガーネット」:クリスマス用ガチョウから出てきたのは盗まれた伯爵夫人の青いガーネット。ホテルの夫人の部屋で消えたこの宝石がどうしてガチョウから?ホームズはその経路と真犯人をつきとめるが・・・。「いまは、人を許す季節だからね。・・・解決できたこと自体が報酬と考えようじゃないか。」 「まだらの紐」:零落した名門貴族の義父ストーク・モーランと暮らすヘレン・ストーナー嬢からの依頼はなんとも奇怪なものだった。姉が二年前に亡くなったときの言葉、「まだらの紐が!」。そして今危険が迫る。あまりにも有名な作品ではあるが、このダイイング・メッセージはちょっと無理があるのでは?素直に○○(カタカナ2文字)が!と言えばよかったのでは?英語の問題か?密室殺人事件である。 「技師の親指」:高額の報酬に釣られて仕事をしては飛んでもない目にあうよという話。技師は親指を犠牲にしたのである。犯罪者たちは逃げおおせたが修理を依頼した設備を犠牲にしてしまった。 「独身の貴族」:一流の貴族セント・サイモン卿は結婚式当日花嫁である米国富豪の娘ミス・ハティ・ドーランに披露宴朝食会の席上失踪されてしまう。当然この事件もアメリカでの出来事が背景にある。没落しつつある英国貴族に対する勃興しつつある米国資本家という図式で読むのは陳腐すぎるか。 「緑柱石の宝冠」:英国有数の銀行頭取が依頼人である。英国でもっとも「身分の高い」方のひとり(皇太子クラスか?)から融資を申し込まれ、担保に取った緑柱石の宝冠。家に持って帰ったが、宝冠の一部と緑柱石が何者かにもぎとられてしまうのである!金に困っている息子か?まさか最愛の姪メアリが?・・・うーん、何ともいいようのない結末である。事件は金で解決、犯人は逃げるのである。 「ぶな屋敷」:破格の条件で住み込み家庭教師として契約したヴァイオレット・ハンターの勤務先がハンプシャー州の「ぶな屋敷」だった。ところが条件が変わっていた。「髪を切れ」だのアメリカにいる娘の服を着ろだの、これは怪しい。乗り出したホームズが事件の真相を暴きだす。むー、これも財産相続が絡んでいるんですね。 ****************** こうやって書いていくとたいしたことはないようだが、ひとつひとつの話に謎があり、推理と行動がある。毎月雑誌に掲載するスピードで書いていくのは並大抵のことではなかったに違いないと私のような凡人は考えるのである。何より後のミステリ(推理小説)の原型のような謎やトリックがあり、合理的な推理法と現場検証という手法はさすがである。ここにはミステリの原型がある。 「新訳シャーロック・ホームズ全集」と銘打った日暮雅通(ひぐらし・まさみち、1954-)の個人訳で読み直すシリーズ第四弾は『シャーロック・ホームズの回想』(1893)になるが、しばらく間を置こうかな。 |