|
感想文番号 |
著者 | 書名 | 刊行年 | 刊行国 | 出版社 |
| 2008070006 | アーサー・コナン・ドイル | 四つの署名 | 1890 | イギリス | 光文社文庫 |
評者:発起人 評価:5 読了日:2008/07/27 公開日:2008/07/27
|
密室殺人犯と財宝を追うシャーロック・ホームズの第二長編 |
|
「新訳シャーロック・ホームズ全集」と銘打った日暮雅通(ひぐらし・まさみち、1954-)の個人訳で読み直すシリーズ第二弾。(私は1993年3月25日、延原謙訳の新潮文庫版を読んだ記録がある。記憶はほとんどない。) いきなりホームズがコカイン注射をするシーンから始まる! いくら当時は合法だったとは言え、事件解決に奔走しているとき以外は退屈を紛らわせるためにコカインを常習しているというこの名探偵、医者である記述者の「わたし」=ワトスン博士のような凡人(読者代表)には測り知れないキャラである。 ホームズが名探偵の条件を挙げている場面もある。いわく「観察力」「推理力」そして「知識」である。さらに「ほかのどの要因もひとつひとつ打ち消していけば、最後に残るのが事実ということになるのさ」とホームズがいわゆる消去法推理を得意としていることも述べられている。しかし今回の事件はホームズの推理法がきれいに決まったという感じはしない。 依頼人、ミス・メアリ・モースタン(27)が持ち込んだのは推理以前にホームズとワトスンに行動を要求するものだった。インドに赴任していた父・モースタン大尉のロンドンでの謎の失踪、毎年一粒づつ送られてくる大粒の真珠、そして謎の人物からの面会要請の手紙。立会ったホームズとワトスンそしてモースタンが連れられたのはモースタン大尉の友人だったジョン・ショルトー少佐の息子のひとりサティアスのところだった。 サティアスが明かすモースタン大尉失踪の真相と莫大な財宝の在り処を隠したまま死んだショルトー少佐、そして残された「四人のしるし」。サティアスは双子の兄バーソロミューが財宝を発見したという知らせを聞いてモースタン大尉の娘であるメアリにも知らせたというのだ。 深夜、ショルトー少佐の残したポンディシェリ荘に着いた一行を待ち受けていたのは密室状態に残されたバーソロミューの死体とまたまた「四人のしるし」の紙片。 謎の犯人は財宝も奪い去ってしまったのだ。ホームズはあらゆる手段を駆使して犯人(彼にはもうわかっているのである)と財宝の行方を捜す。宿無し少年たちのベイカー街不正規隊(イレギュラーズ)や名犬(?)トービーなども活躍し、テムズ川を舞台にした派手な追跡劇もある。 しかし、しかしである。真相はやはり犯人の自白に頼らざるを得ない。そして第1作『緋色の研究』(1887)ではアメリカでのモルモン教社会が背景に使われたように、本作では英国植民地支配下のインドが背景にある。 つまり、科学的な推理法と消去法だけでは事件の謎は明らかにならないのである。アーサー・コナン・ドイル(Arthur Conan Doyle, 1859-1930)が創造した不世出の名探偵シャーロック・ホームズと言えども自白が必要だったのである。 さて、この事件を通じて「わたし」(=ワトスン博士)は生涯の伴侶を得、ホームズはベーカー街221番地Bにひとり残されることになる。 「だが、恋愛なんて、感情的なものだよ。すべての感情的なものは、ぼくがなによりも大切にしている冷静な理性とは、相いれない。判断力をくるわせるといけないから、ぼくは生涯結婚しないつもりさ」と言うホームズはまたコカインの瓶に手を伸ばすのである。 シャーロキアンたち(ひょっとしてオタクのハシリではないか、いや失礼!)にとっては研究課題満載で楽しめる作品になっていると思う。 さて、私は引き続き『シャーロック・ホームズの冒険』(1892)に突入だ。 |