感想文番号

著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2008060004 ジョン・グリシャム 依頼人 1992 アメリカ 小学館文庫

評者:発起人    評価:8  読了日:2008/06/20  公開日:2008/06/21

そんな秘密は聞きたくないっ!−ジョン・グリシャムの第4作

 とにかく米国での人気は絶大、毎年のように新作が年間ベストセラーリストの上位を占めるジョン・グリシャム(John Grisham, 1955-)の本書は『評決のとき』(白石朗訳、新潮文庫、1989)、『法律事務所』(白石朗訳、新潮文庫、1991)、『ペリカン文書』(白石朗訳、新潮文庫、1992)に続く第4作。

 しかし、日本では食べ物の違いか、司法制度が異なるためかこの作家の作品もあまり読まれなくなっている気がする。本書『依頼人』(白石朗訳、小学館文庫、1992)も最初はたしか新潮文庫で出ていたと思うが、現在では小学館文庫に転籍(2003)している。文庫世界のステータス的にはやはり阪神から楽天へ転籍という感じは否めない。

 さて舞台はテネシー州メンフィス。エルヴィス・プレスリーやジャック・ダニエルズで有名なこの都市のトレーラーハウス団地に住むマーク(11)とリッキー(8)のスウェイ兄弟がタバコを吸うためにやってきた近所の「秘密の場所」でとんでもないヤツに遭遇してしまう。

 酒とクスリで酩酊状態、排気ガスを車内に引き込んで自殺をしようとしていたルイジアナ州はニューオーリンズの弁護士・ジェローム・クリフォードだった。二人はホースをはずして男の自殺を妨害しようとするが、マークが見つかって車内に監禁されてしまう。弁護士は銃まで持っていただけではなく、マークに男の自殺の動機となった秘密を話してしまう。しかも、結局最後には兄弟を前にして拳銃で自殺をとげてしまう。

 聞きたくないことを聞かされる、見たくないものを見せられるのは誰だっていやなものである。満員電車の中での音漏れとか、国分寺から新宿まで停まらない電車での次の駅(=新宿)を知らせるアナウンスとか、イアフォンをしていないが代わりに耳の穴の周りの毛が身動きのできない私の視線に入るおじさんとかまあいろいろあるが、マークが聞かされたのは殺された合衆国上院議員の死体の在り処である。兄弟が見せられたのは中年弁護士が口に拳銃を突っ込んで自分を吹っ飛ばす瞬間である。これは酷い。

 しかも上院議員を殺したのはニューオーリンズのマフィア、事件を追っているのは連邦検事局、FBIである。当然マスメディアもくっついてくる。リッキーはショックで昏睡状態となり入院、母のダイアン(29)は時給7ドルの工場での職場を失いそうになる。マークはマフィア、検事局・FBI、新聞記者から脅され、追われるのである。

 しかしマークは並みの少年ではなかった。彼が飛び込んだのはメンフィスの女性弁護士レジー・ラブ(52)のオフィス。児童虐待などを専門とするレジーはマーク(=依頼人)と家族の利益を守るために手付金1ドルで奮闘し、危機を乗り越えていくのである。しかしあくまでも主導権をとっているのはマークである。

 前半のスリリングな展開と比較して後半は少々だれ気味であり、私が好きな二転三転するプロット展開はない。しかしなにしろ主人公は11歳の利発な少年である。いろいろ訳ありの女性弁護士である。しかも二人の子どもを育てるまだ若い母である。面白くないはずはないのである。

 さらに検事やら裁判官やら捜査官などの司法関係者、マフィアたちもそれぞれリアルに描かれていて、いつもながら米国司法制度の複雑さや、国民に根付いた権利意識の強さに感心し、一大「産業」と呼んでもいい「司法業界」の実態に驚くのである。すでに16年前に刊行された作品だが、米国の貧富の差の激しさ、暴力蔓延ぶりにも唖然とするのである。


作家別一覧:  1 2 3 4 5 6 7 8

刊行年別一覧: 1 2 3 4 5 6 7 8

Home