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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2008050003 キラン・デサイ 喪失の響き 2006 アメリカ 早川書房

評者:発起人    評価:9  読了日:2008/05/17  公開日:2008/05/18

世界の複雑性を切り取った傑作 −「負け癖」への暖かいまなざし

  インドに生まれ、英国経由で米国に移住している著者キラン・デサイ(1971-)が女性としてのブッカー賞最年少受賞を果たした作品である。全米批評家協会賞という賞も受賞している。

 さてどんな小説か?主な舞台は1986年ごろのインド・西ベンガル州のカリンポン周辺である。カンチェンジュンガの高峰を望むこの地方で、十七歳の少女サイは母方の祖父である判事(すでに退職している)と料理人そして判事の愛犬・マットと暮らしている。

 サイの両親はロシア(ソ連)で交通事故で亡くなり、寄宿制の修道学校から唯一の親戚であるこの祖父の住むチョーオユーと呼ばれる家に引き取られてきたのだ。サイの父は当時友好関係にあったソ連の衛星に乗り込むインド初の宇宙飛行士になる訓練を受けていたのである。

 判事は独立前の「インド行政府」の判事として勤めていた。貧しい生い立ちから猛勉強し試験に合格、ケンブリッジに留学し、英国風の服装やマナーを身につけていたが、英国にもインドにもなじめない矛盾を抱えている。

 料理人は長く判事に仕えてきた。従順を装いながら、裏では酒の密造などをして息子のビジュを米国に出国させ、ビジュから届く手紙をいちばんの楽しみにしている。ビジュは世界各地からの非合法移民たちが職と成功を求めて集まっているニューヨークでさまざまの経験をする。

 サイは家庭教師の大学生ギヤンと恋愛遊戯(幻想)のような関係を持つが、ネパール系インド人であるギヤンはやがてGNLF(ゴルカ民族解放戦線)の運動に巻き込まれ、チョーオユーに銃や食糧があることを仲間に教え、判事たちは屈辱的な目にあう。

 こうやっていくらあらすじを書いていても読んでいない人にはほとんど意味がわからないだろうと思う。

 この小説は複雑なのであ。饒舌である。悲惨であるがコミカルでもある。叙情的かと思うと即物的で下品でもある。ローカルでありながらグローバルな世界の構図をとらえている。著者の筆致は自由気ままであるようで慎重に構築されているようで、やっぱり筆の赴くままという気もする。

 肉親、家庭、故郷、そしてなによりも損失・喪失を代々受け継いできた人々への著者の愛情溢れる視線が普遍的な感動を与える作品にしている。(原題は"The inheritance of loss"、直訳すれば損失・敗北の相続・継承というような意味だと思う。負け組相続あるいは負け癖という感じか。)

 翻訳は自身作家でもある谷崎由依(たにざき・ゆい、1978-)。

 若干明らかな誤植があるのが残念。>早川書房編集部


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