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感想文番号 |
著者 | 書名 | 刊行年 | 刊行国 | 出版社 |
| 2008040002 | ウィリアム・シェイクスピア | ヴェニスの商人 | 1596 | イギリス | 光文社古典新訳文庫 |
評者:発起人 評価:9 読了日:2008/04/06 公開日:2008/04/07
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踏んだり蹴ったりのユダヤ人シャイロックの台詞が胸を打つ |
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このあまりにも有名なウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)作の『ヴェニスの商人』、私は子どもの頃、子供向け「世界名作全集」の類で読んであらすじは知っていた。 ヴェニスの商人・アントニオが友人バサーニオのために保証人となり強欲なユダヤ人シャイロックから金を借りる。利子はいらないが返済ができなかった場合にはアントニオの肉1ポンドを貰い受けるという契約である。ところがアントニオの全財産を積んだ船が難破、アントニオは一文無しに。シャイロックは一文の特にもならないのに、「意地悪で」、約束の実行を迫る。ところがポーシャという賢い美人が裁判官に変装して現れ、機知で逆にシャイロックをやり込める、めでたしめでたしという感じで記憶に残っていたのである。 今回、安西徹雄(あんざい・てつお、1933-)の新訳を読んでそうしたおぼろげな愉快なハッピーエンドの物語という印象は一変したのである。もちろん子どものころから私もいささかなりとも人生経験を積み、知識も増えている。 これは第一に不当な差別を代々受けてきたユダヤ教徒とキリスト教徒の軋轢を描いている。どちらの側にも言い分があるが、シャイロックがアントニオからユダヤ教徒(人)であるがゆえに侮辱を受けてきたこと、それをうらんでいたことが明確に示される。多数派はキリスト教徒なのであり、政治力もないのである。シャイロックにとって抵抗の基盤になるのはお金しかないのである。 アントニオは貿易で財を成している。シャイロックは金融に頼る。アントニオにとって利子などというものは不浄な利得である。シャイロックには貿易を行うチャンスが(多分)与えられていない。 シェイクスピアはもちろん当時の英国の観客を念頭において劇作を行ったはずでありシャイロックのいささか常軌を逸した要求を実現させるわけにはいかなかったであろう。シャイロックは結果的には散々な目にあうのだが、たまりにたまった差別への屈辱感や恨みを観客に訴える場を与えられている。 「ユダヤ人には、目がないのか。ユダヤ人には、手がないのか。胃も腸も、肝臓も腎臓もないというのか。四肢五体も、感覚も、感情も、激情もないというのか。」 実はヴェニスの商人=アントニオよりよっぽど主役なのである。 ベルモントに住む貴婦人・ポーシャの婿選び(黄金・白銀・鉛の箱を選ばせる)やシャイロックの娘・ジェシカとキリスト教徒・ロレンゾの恋、そして有名な裁判の場面など幾重にも面白い筋書きがからまってこの傑作を構成している。 しかしシャイロック無しには、シャイロックの台詞なしにはこの作品は成り立たないのである。台詞回し・言葉の豊富さについては私はただただ感心するのみである。 |