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2007100005

ドリス・レッシング 破壊者ベンの誕生 1988 イギリス 新潮文庫

評者:発起人    評価:8    読了日:2007/10/18    公開日:2007/10/20

ベンは近未来社会の預言者か?−祝ノーベル文学賞受賞!

 

  2007年度ノーベル文学賞受賞が決定した英国の女性作家ドリス・レッシング(1919-)が1988年に発表した作品である。日本では新潮文庫の一冊として(上田和夫訳)発売されたが現在は絶版状態、私はたまたま1994年に文庫が出たときに買っていたのを受賞のニュースを聞いて引っ張り出してきた。

 原題は"The Fifth Child"であるから五番目の子どもであるが、それでは売れないと考えたのか当時の新潮文庫編集部がこういう題名にしたのだと思う。

 60年代、既成価値が軽蔑され揺らいだ時代にデイヴィッドとハリエットは伝統的な価値観を抱いて結婚した。ロンドン郊外に大きな家をローンで買った二人の夢は何人も子どもを作って、クリスマスや復活祭(イースター)、夏休みには親戚や友人たちが集ってくるような大きな、暖かい家を築くことだった。

 デイヴィッドの両親は離婚し、彼は小さいころから母親モリーが再婚した貧しい歴史学者フレデリックのもとで育った。父親のジェイムズはヨット建造家でジェシカという女性と結婚していた。ハリエットの母親のドロシーは未亡人だった。

 デイヴィッド/ハリエットが不相応に巨大な家を求めたのは崩壊した家庭を自分たちで再建したかったからなのだろう。その願いはかなえられたように見えた。長男ルーク、長女ヘレン、次女ジェイン、次男ポールが生まれ、家は人々を呼び寄せる魔力を持ったかのようだった。しかし、それも五番目の子ども=ベンが生まれるまでのことだった。

 ベンは先祖がえりしたような体つきで、凶暴、異常な食欲を持ち、狡猾だった。赤ん坊のころからみんなを恐れさせた。人々はこの家に寄り付かなくなった。デイヴィッドは仕事に逃避場所を求めた。ハリエットがただひとりベンと対峙せざるをえなくなった。デイヴィッドたちがベンを二度と家に戻れない施設に預けたがハリエットは薬漬けになって今にも殺されようとしていたベンを助けて家に連れて帰ってきたからだ。

 ベンとは何者なのか?彼の心が表現されることはない。母親ハリエットにもわからない。異種の生物を取り扱うようにこの「破壊者」と向き合うほかはないのである。時代は移り変わり80年代、英国社会に暴力が蔓延した時代、ベンはむしろ年上の不良仲間たちをひきつけるリーダーのような存在になっていく。ベンこそは未来社会の預言者なのか?暴力・貧困・反知性・管理主義が世界を覆うことを私たちに教えてくれるために生まれたのか?

 さて、アマゾンで同じ作者の『ラブ・アゲイン』という本を注文したが届くのはいつになるかわからない。翻訳書の多くは品切れ・絶版状態であり、同時代の世界文学への関心の低下を嘆くのである。


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