感想文番号

著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2007090002 舞城王太郎 みんな元気。 2004 日本 新潮社

評者:発起人    評価:6  読了日:2007/09/08  公開日:2007/09/08

タイトルと反対に元気なくないか?−舞城王太郎の第9作!

  本の山で埋もれている間に、この作品集は『みんな元気』と『スクールアッタク・シンドローム』に分冊されて新潮文庫になってしまった。おまけに後者には「ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート」という書き下ろし作品も収録されているという。

 「みんな元気。」は「目を覚ますと、隣で姉の体がベッドからだいたい十五センチくらい浮いている。」という文章で始まる。

 「私」=山口枇杷はこのとき小学六年生、姉のゆりも同学年。双子じゃなく「私」は七ヶ月ぐらいで生まれてきたのだ。弟の秀之(小四)、妹の朝(小一)、工業英語の翻訳家である父、皮膚科の医師をしている母の六人家族で調布市に住んでいる。

 調布市が七つの竜巻に襲われた日、山口家に文字通り空から突入してきた杉山家(父母と三人兄弟)が朝を連れていく。替わりに杉山家の次男・昭を置いていくという。そのときには飛ぶ能力を持っていたゆりも飛べない「私」も父も空に浮かぶ竜巻に乗って杉山家を追いかけるが・・・。

 例によってあらすじの説明は無意味だ。時空は交錯し、「私」は未来の自分が体験する可能世界に同時存在する。この世界ではなぜ?という問いは無意味である。まるで通勤電車で十代の子どもたちのグループが同時に別々に喋るのを聞いているようだ。

 人は多様な可能性からひとつを選び取らなければならない、いや選び取らなくても流されるのであれば、選び取れ!というのがこの作品のメッセージだと思う。しかしプロットの破天荒ぶりにあまり似合わず、物語の面白さも水準に達していない。

「Dead for Good」。永遠に死んでいるという意味か。しかし、そんなことは「・・・単なる言葉でしかなくて、そんなものはない。」

「我が家のトトロ」。脳の医者にならなければならないとある日思った「僕」(上口慎平)は広告代理店を辞め、毎年医学部の受験を受け、落ち続ける。妻のりえは逆に「僕」の会社に勤めはじめる。娘の千秋と猫のレスカとの暮らし。だが千秋がおかしなことを言う。太ったレスカはトトロだというのだ。りえも言う:

「・・・慎平、レスカ、マジでトトロだったんだけど」。千秋は毎日レスカ=トトロと外に出て遊ぶ。りえと千秋にとって、「僕」にとってそしてすべての人にとって《トトロ》とは?

「矢を止める五羽の梔(くちなし)鳥」。おなじみ西暁町の山火事、そして連続する女子中学生殺人事件。「僕は矢を止める五羽の梔鳥。口をもらって大満足。言葉は神で僕はその道具。全てがそうなのだ。」

「スクールアタック・シンドローム」。お気に入りのソファに座って動かず一日中酒を飲みDVDを見たり本を読んでいる「俺」。妻は家を出、(妻とのではなく「俺」が十五歳のときできた)息子の崇史は自分の通う中学を襲い皆殺しにする計画を立てているらしい。ある日見知らぬ男が「俺」の部屋に侵入し襲ってきたので、相手の耳にかじりつき食べてしまった!男は逃げた。そして始まる暴力の連鎖・・・。

 あー、全体を通じてそれなりに鋭いし面白いフレーズもあるのだが、元気がない。迷いと堂々巡りとでも言えばいいのか。舞城王太郎(まいじょう・おうたろう、1973-)はここで大きな壁にぶち当たったような気がする。

 実際単行本としては、この作品のあと出版されたのは『SPEEDBOY!』(2006、講談社BOX)のみである。単行本化されていない作品は多数あるようだが、この『みんな元気。』に明らかに感じられるスランプがどうなったか気になる。復活なるか?


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