感想文番号

著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2007090001 福岡伸一 生物と無生物のあいだ 2007 日本 講談社現代新書

評者:発起人    評価:10   読了日:2007/09/02  公開日:2007/09/03

生命とは何か−分子生物学の最先端を明晰・叙情的に描いた傑作

  現代科学の最先端はほとんどの素人が口を挟めないものになりつつある。しかし、時間とは何かとか、宇宙はどうなっているのかとか、本書のテーマになっている生命とは何かとかいう問いは誰でも時々は考えたくなるのである。しかし、まじめにこうした問いを考えるためには実証的・理論的研究が必要不可欠であり、私ごときが考えたからといって何らかの答えが出てくるはずはない。

 私が必要としているのは本書のような、数式や化学式は使わず、前提となる知識を必要としないでも、著者の記述を追っていけばなんとなくわかる「作品」である。こんなところまでわかっているのか、こんなところはわかっていないのか、へー、学者の間の競争も厳しいね、サラリーマンどころじゃないね、ふーん、と実際驚きの連続だった。

 はじめは、生命?それは、あー、なんだ、DNAだろ、DNA、つまり遺伝子だよな。自己複製していく物質だな、ヒトの遺伝子(ヒトゲノム)っていうやつも解読されたって新聞に出てたよなあ、でもその意味はまだよくわからないらしいけどなどと思いつつ読み始めると、一気に引き込まれたのである。

 生命とは何か?著者は伝統的な「自己複製を行うシステム」という定義から「動的平衡」というモデルに基づいて説明しようとしている。

 野口英世、オズワルド・エイブリー、キャリー・マリス、ロザリンド・フランクリン、ジェームズ・ワトソン(『二重らせん』(1968)は有名ですね。)、フランシス・クリック、モーリス・ウィルキンズ、エルヴィン・シュレーディンガー、ルドルフ・シェーンハイマー、ジョージ・パラーディなどの理論・研究・仮説・実験が本書のテーマに即してその本質的な部分をわかりやすく、著者の研究と重ね合わせて読者の前に提示されている。

 著者がニューヨークのロックフェラー大学やボストンのハーバード大学で研究していたテーマの説明、苦労、研究者としての不安・喜び・思い出なども絶妙の配合で織り込まれている。

 著者の福岡伸一(ふくおか・しんいち、1959-)は現在青山学院大学教授。ノーベル賞級の学者かどうかは私に判断できるはずもないが、生物学・医学などのノンフィクション作家として見ると一流である。わかりやすい説明、叙情的にさえ感じられる文章とアナロジーの旨さ、おそらく今年のベスト10級の作品である。

「私たちは、自然の流れの前に跪く以外に、そして生命のありようをただ記述すること以外に、なすすべはないのである。」


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