感想文番号

著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2007080004 田中森一 反転 闇社会の守護神と呼ばれて 2007 日本 幻冬舎

評者:発起人    評価:7   読了日:2007/08/19  公開日:2007/08/20

元特捜検事・弁護士が闇社会と体制の癒着を描いたベストセラー

 とは言っても、大切なところはモザイクに覆われてよく見えないのである。具体的な事実が書かれているところはほとんどが故人やすでに有罪判決が確定し服役中の人たちについてである。今問題になっても時効になるであろう疑惑・事件ばかりである。

 要するに、私はみんな知っている、見てきている、おまけに幻冬舎から本まで出しているんだぞ。第二弾、第三弾だって出せるんだぞ、わかっているんだろうなという感じか?

 いや、権力の恐ろしさを痛感している著者の田中森一(たなか・もりかず、1943-)はこの本がいくらベストセラーになろうとそんなことぐらいで自己の刑事被告人としての扱いが変わるとは思ってはいないだろう。せいぜい刑期を終えたあとの生活のために作家にもなれるということを試したかったのかもしれない。

 著者は長崎県平戸市の貧しい家に生まれた。苦労しながら岡山大学に入学、司法試験に一発合格して検事になった。この検事になるまでの苦労やエピソードの部分はまあ失礼だがよくある話といえばよくある話である。だが著者が人並みはずれた知力と集中力、体力で難関を乗り切ってきたらしいことはよくわかる。

 そして各地の地方検察、大阪地検特捜部、東京地検特捜部ではさまざまな事件を捜査し「正義」の側に立って政治家の汚職事件や経済犯罪の捜査・摘発に取り組んだ。事実、撚糸工連事件(国会議員2人を逮捕・起訴)をはじめとして成果をあげてきた。ところが、平和相銀事件、福岡県苅田町事件、三菱重工CB(社債)事件などでは検察上層部の意向や圧力で事件追求はうやむやにされてしまう。

 著者は検事という存在自体が権力護持のためにあり、決して正義を実現するためにあるものではないことを身をもって知るのである。

 そして著者は検事を辞めて弁護士となった。しかもかつては少なくとも建前上は敵だった相手側の弁護士になったのである。これが「反転」の意味であるが、その動機は本書を読むかぎりはよくわからない。本人にも明確に分析できないのかもしれない。

 検事の仕事のやり方に精通し、検察内部に人脈もある著者は、一流企業から裏社会、バブル紳士、政治家たちにいたる顧問契約を結び、親交を深める(というかいっしょに豪遊していたという感じか)。検事時代には想像もできなかった額の金を手に入れ、散財する。

 ところが現在著者は石橋産業事件で詐欺罪の罪に問われ東京高裁で懲役三年の実刑判決を受け、最高裁へ上告している刑事被告人である。この事件について著者は自身はまったくの無実であると一貫して主張している。

 この本に登場する裏社会の名士たち(山口組若頭宅見勝組長など)、いわゆる「バブル紳士」たち(許永中、高橋治則、伊藤寿永光、小谷光浩など)、そして政治家たち(山口敏夫など)の癒着ぶりはひどい。著者もかつてはその中にいた(今もか?)だけにその描写は迫力があるが、最初に述べたように肝心なところがどこにも書かれていない。この本を詳細に読んで辣腕検事が捜査したとしても一人も起訴はできないに違いない。

 ぜひ著者には全国の読者のために、すべてを書いてもらいたい。いやあそういう時代だった、バブルのときはみんなそうだった、それに弁護士というのは被告側に立って無罪を勝ち取るあるいは刑を軽くするのが仕事だなどと言ってないで、著者が「弱い者」に同情するというのならこの社会の荒廃と停滞を作り出した者たちの行動について、自身を含めて全部書いてもらいたい。

 幻冬舎も圧力などに負けず、出版人としての仕事をしてもらいたい。(歴史的事実の記述について明らかな誤りが散見されるのは見逃してあげるから。)


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