感想文番号

著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2007080003 京極夏彦 百器徒然袋−風 2004 日本 講談社ノベルス

評者:発起人    評価:8   読了日:2007/08/15  公開日:2007/08/16

京極作品の撹乱要因=探偵・榎木津礼二郎シリーズの第二弾!

 『百器徒然袋−雨』(1999)に続いて、京極夏彦の京極堂シリーズの準主人公的存在・榎木津礼二郎 を主役にした作品集。

 前作と同様、語り手の「僕」(電気配線の図面引き)は榎木津に関わったがゆえに、事件に巻き込まれてしまうのである。前作では「僕」には名前がなかったが今回は最初から「本島」という名前が明らかになっている。

 なにしろ他人の視覚的記憶が見えるという「性質」を持っているため榎木津にはいきなり真相が見えてしまう。しかしこの「探偵」は説明をしない。もっぱらこれを担当するのが京極堂こと中禅寺秋彦たちの「一味」である。「僕」や薔薇十字探偵社の安和寅吉(和寅)、益田龍一(元神奈川県警)などは榎木津にとっては「下僕」なのであり、読者にとっては榎木津や京極堂の言葉を噛み砕いてくれる役割を果たしてくれる。

 榎木津は京極作品中唯一超自然的な存在である。ゲームのルールが違うのである。下手をすると榎木津は撹乱要因にしかならない。しかし、作者はこのような登場人物をあえて自由に行動させ、一定の緊張感を伴いながらより高次の統一感・奥行きを創造することに成功しているのである。

「五徳猫 薔薇十字探偵の慨然」では、「僕」は幼馴染で隣人でもある紙芝居絵描きの近藤と招き猫は左右どちらの手を上げているのかについて賭けをする。招き猫で有名な豪徳寺に確かめに行ったところ、そこに来ていた「奈美木セツ」(『絡新婦の理』(1996)の織作家でメイドをしていた娘)と幼いころに貧しさのため身を売られそれ以来現在の奉公先「小池家」に仕えているという梶野美津子(29)に榎木津への紹介を頼まれる。『今昔続百鬼−雲』(2001)の語り手である沼上蓮次も登場し、猫についての薀蓄が披露される。シナリオが出来上がり、「僕」は自分の役割もわからないまま、国分寺での大立ち回りの末、薄幸の美津子は救出・解放され、過去の殺人事件の謎は暴かれ、小池・信濃(セツの雇い主)一味たちも回復不能の打撃を受ける。

 ところが、次の「雲外鏡 薔薇十字探偵の然疑」では前の事件で榎津一味だと目された「僕」がいきなり拉致・監禁されてしまう。駿東という拉致側の男に助けてもらったが、まったく同じ状況で同じ日に同じ場所で駿東という男は殺されていたのである!「僕」は絶対絶命の危機である。ところが霊感探偵と名乗る神無月鏡太郎という男が現れ、榎木津と探偵勝負をするという・・・。さて真犯人は?駿東殺害の謎は?この作品では久しぶりに中禅寺敦子(京極堂の妹で雑誌記者)も登場、最後はやはり榎木津一味が陰謀を粉砕して痛快な勝利を収めるのである。もちろんこの作品での薀蓄は「鏡」である。

 最後の「面霊気 薔薇十字探偵の疑惑」で狙われたのは益田龍一である。連続窃盗事件の容疑者にされてしまう。「僕」と隣人・近藤たちの「文化住宅」でも窃盗事件が発生、何か盗られていないか近藤の部屋の整理を手伝わされて出てきたのが不思議な「呪いの面」。古物商今川雅澄のところに持ち込むとこれは美術史の書き変えが必要なほどの作品かもしれないという。もちろん本作でのテーマは「面」である。最後は事件の黒幕、羽田製鐵会長・顧問の羽田隆三(『塗仏の宴』(1998)に登場)が榎木津たちの筋書き通りに痛打を浴びる。

 そして「呪いの面」の正体は?今川が騙されそうになったほどのできばえのこの作品は、実は古面どころか江戸時代末期の贋作だった。これは当然あの連中の仕業だろう(『巷説百物語』(1999)など参照)。京極堂シリーズからも巷説百物語シリーズからも触手が伸びてきているのだ。

 最後に「僕」(本島)の下の名前が明らかになる。

 いささかパターン化されていると思う向きもあるだろう。また京極夏彦のほかの作品を読んでいないと面白さ半減である。しかし私のように年代順に読んでいる読者にとっては面白さ倍増である。


作家別一覧:  1 2 3 4 5 6 7 8

刊行年別一覧: 1 2 3 4 5 6 7 8

Home