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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2007060006 三遊亭円朝 真景累ヶ淵 1888 日本 岩波文庫

評者:発起人    評価:6   読了日:2007/06/23  公開日:2007/06/24

幽霊無き時代の怪談話−映画『怪談』の原作

 三遊亭円朝(さんゆうてい・えんちょう、1839-1900)の創作噺の速記本によるこの『真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)』を読んでもこの落語家がどのように演じたのかは私にはよくわからない。DVDやビデオは無い時代なのである。

 つまり小説のようにしてこの怪談を読んだのだが、この作品はたびたび他の落語家によって演じられ、演劇化もされている(もちろん未見)。また今年の8月から公開される映画『怪談』(中田秀夫監督、尾上菊之助、黒木瞳、井上真央、麻生久美子、木村多江、瀬戸朝香など出演)の原作でもある。

 冒頭、円朝はこう述べている:「・・・怪談ばなしと申すは近来大きに廃りまして、・・・幽霊というものは無い、全く神経病だということになりました・・・」。

 たしかにこの作品を読んでも幽霊は実在するものとしては描かれていないのである。真景=神経である。

「・・・詰り悪い事をせぬ方には幽霊という物は決してございませんが、人を殺して物を取るというような悪事をする者には必ず幽霊が有りまする。」

 闇が消え明りに満ちた現代でも同じような幽霊に苦しむ人たちには身につまされる話かもしれないが、まあ、私が読んだ限りではそんなに恐ろしくはないのである。昔の人たちは毎晩寄席に通って暗い小屋でこの幽霊話を楽しんでいたのだろう。因果応報という仏教的な戒めの意味もあったのかもしれない。

☆ 警告 以下は詳しいあらすじなので読書の楽しみを奪う可能性がありますので自己責任でご覧ください:

 物語の発端は安永二年(1773)十二月二十日。江戸・根津七軒町に住む鍼医で高利貸も営む皆川宗悦が小日向服部坂上の貧乏旗本・深見新左衛門宅へ貸金の督促に訪れ、酒乱の新左衛門に斬り殺されてしまう。新左衛門は下男の三右衛門に口止め料を渡し、死体の入った葛篭を捨て、故郷の下総に帰ることを命じる。

 殺された宗悦には長女・豊志賀と次女・という二人の娘があった。

 いっぽう深見新左衛門の奥方は翌年あたりから具合が悪くなり、深見家の門番の勘蔵だけでは、次男・新吉(2)の面倒も奥方の看病も出来ぬということでお熊(29)という中働の女を置いたが、すぐにお手つきとなり懐妊。長男・新五郎(19)は家出。そうするうちに十二月二十日、奥方のために呼んだ按摩が先年死んだはずの宗悦に見えた新左衛門が斬りつけると按摩の姿はどこにも無く、苦しんで死んだのは奥方。

 さらに翌年、新左衛門はお役目上の事件で殺され、深見家は改易、妾のお熊は産み落とした女児とともに故郷の深川へ、門番の勘蔵は次男・新吉を貰い乳で育てた。

 長男・新五郎は谷中七面前の質屋主人・下総屋惣兵衛に助けられ、店で重用されるようになり、中働の女中に惚れてしまう。この女中・お園こそあの宗悦の次女であった。お園の具合が悪くなったときも、新五郎は献身的に看病するが、お園は理性では新五郎の好意を理解するが生理的な嫌悪感を振り切ることができない。物置で無理矢理お園に乗掛かろうとすると下にあった苆(すさ)を切る押切というという刃物でお園は絶命。

 新五郎は店の金・百両を盗んで逐電、しばらくして江戸へ戻ってきて勇治という屋敷の元下男を尋ねようと入った家で通報され捕縛される。

 さてそれから十九年後、根津七軒町の富本の師匠・豊志賀(39)は下谷大門町の煙草屋・勘蔵の甥・新吉(21)とと深い仲になり、師匠目当ての男たちは離れていくが、お久(18)という小間物屋の娘だけは相変わらず稽古に通ってくる。そのうち豊志賀の顔にできた腫物が爛れて膿が滲みだし、髪も抜け、お岩さんのようになり、お久との仲を疑ぐっては嫌味を言う。これはたまらないと飛び出した新吉が偶然出くわしたのがお久。新吉はお久を鮨屋の二階に連れ込みくどいていると突然お久の顔が豊志賀のように見えてギョッとしてお久を突き飛ばし、大門町の伯父・勘蔵のもとに来てみると、豊志賀が来ているという。駕籠屋を呼んで送っていこうとすると、そこに届いた知らせは豊志賀の死。

 戻った新吉に残された豊志賀の書置には「たとえこのまま死ねばとて、この怨は新吉の身体に纏(まつわ)って、この後女房を持てば七人まではきっと取殺すからそう思え」。ところが豊志賀の墓参りで再び出会ったお久に誘われ、二人で下総の羽生村に行くことになり、二人は旅の途中で結ばれる。

 今では累ヶ淵とも呼ばれる羽生村は昔、累(かさね)与右衛門に殺されたという場所である。(本書はその後の話という体裁を取っている。)夜この村へ入った二人だが、お久は草刈鎌で足に大ケガをしてしまう。新吉にはお久の顔がまた豊志賀のように見え、その鎌でお久の咽喉を斬ってしまう。現場を目撃したのが土手下の甚蔵という男。新吉は弱みを握られているので、この悪党の兄弟分となる。お久は法蔵寺(累も葬られている寺)に葬られる。

 新吉が法蔵寺でお久の墓を捜していて会ったのがお累(るい)という娘、これは羽生村の質屋・三蔵の妹だがこの三蔵こそ深見家で宗悦の死体の後始末をした門番の三右衛門の息子であり、またお久の伯父でもあった。お累は新吉に惚れてしまう。土手下の甚蔵はお久が死んだ現場から手に入れた草刈鎌を三蔵に買い取らせる。お累は部屋に出た蛇に驚いて囲炉裏にかかった熱湯で火傷を負い、また豊志賀のような面相になってしまう。

 ところがお累の想いはますますつのるばかりで、甚蔵の下にいる新吉を婿に取りたいと申し出、甚蔵は金目当てに新吉を承知させる。新吉は心を入れ替えて質屋の手伝いなどに励むが、江戸・下谷大門町に住む伯父勘蔵が危篤だと聞いて江戸に戻り、勘蔵が深谷家の門番で自分が深谷家の次男だったと聞かされる。勘蔵はすぐに亡くなり、再び羽生村に戻る旅中、兄の新五郎に出会ったのが刑場の近く。夢の中か現実かわからない出会いだが、そこで三蔵の正体を聞かされる。新五郎はお園殺害と百両の盗みの罪で獄門にかけられている。

 お累は男の子を産んだ。与之助と名づけられたが新五郎に似た顔立ちで、新吉は法蔵寺の和尚から「死霊の祟りのある」と言われ、無縁墓の掃除を薦められる。法蔵寺で羽生村名主・惣右衛門の妾で江戸・深川生まれのお賎(おしず、22)と再開する。新吉は若いころ貸本屋へ奉公に出ていたころお賎と会ったことがあったのだ。二人はたちまち深い仲となる。新吉は妻・お累と子どもを放り出して、お賎のところに入り浸り、金を持ち出すばかりか蚊帳や畳まで売っ払う始末。ついには与之助に熱湯をかけて殺し、お賎のところへ戻る。子どもの亡骸を抱いたお累が現れるが新吉は締め出す。お累は草刈鎌で咽喉笛を掻切って死ぬ。

 新吉の所業に村人も避けるようになるがお賎は名主・惣右衛門に遺言状を書き換えさせ、新吉を唆し惣右衛門を二人で殺害する。しかし真相を見破った土手の甚蔵に二人は脅迫され、お賎は甚蔵を殺す計画を新吉に吹き込む。谷下に突き落とされた甚蔵はしかし死なず、新吉のもとに現れたところをお賎の鉄砲によって今度はほんとうに死ぬ。新吉・お賎は村を出奔する。

 二人に殺された名主・惣右衛門の後を継いだ倅・惣次郎は水街道の麹屋という店でお隅(20)という武家出身の娘に出会い、深い仲になると、家や仕事はそっちのけでお隅に入り浸り状態。ところがお隅に恋慕している安田一角という剣術家が二人にいちゃもんをつけてくる。先代に恩のある相撲取りの花車重吉が仲裁に入ったが安田は聞き入れず、安田一党と花車の勝負となる。花車の機転と強さで安田は逃げ出してしまう。惣次郎はお隅を家に引き取る。

 そのころ羽生村に流れてきたのが山倉富五郎という男、真桑瓜を盗んで捕まるが、惣次郎が書き物などの仕事を手伝わせるために雇い入れる。ところがこの富五郎、お隅にちょっかいを出して、惣次郎の母に叱責され、追い出される。逆恨みをした富五郎は安田一角を訪ね、惣次郎を殺害してお隅を女房にするという計略を吹き込む。卑怯な手を使って一角・富五郎は惣次郎を殺害する。

 ところがこの計略を見抜いたのが花車だった。花車は富五郎を追及するが、富五郎はその場を逃げ出し、安田一角のところに駆け込む。安田は富五郎を常陸に逃がす。花車も相撲があるので江戸へ戻る。

 残されたお隅は惣次郎の母に離縁を願い出た。田舎には飽き飽きした、再び水街道で勤め資金を稼いで江戸に戻りたいという。喧嘩別れのようにして家を出たお隅は水街道の麹屋に戻り、昔と違って「客を取る」と宣伝するようになった。そこに現れた富五郎から必要な情報を聞き出すと匕首で殺害、安田一角の隠れ家に乗り込む。貞蔵という内弟子の咽喉を突き殺したお隅だが、安田一角を討ち果たすことはできず返り討ちにあってしまった。

 惣次郎の母と幼い弟・惣吉は仇討ちの旅に出る。途中母の病気の発作が起こり、小金ヶ原近くの観音堂で休んでいると中にいた尼僧に教えられ惣吉が薬を買いに出ている間に母はくびり殺されてしまった。もちろんもう尼僧はいない。通りがかった藤心村の観音寺の和尚・道恩に引き取られた惣吉は出家して宗観となる。

 数年経って、安田一角は今や盗賊団の首領になっていた。いっぽう新吉・お賎は三蔵と奉公人の与助を待ち伏せて殺害、途中加勢に入った馬方の作蔵という男も殺す。ところがこのときお賎の顔に傷がつき、かつてのお累のような顔つきになってしまう。

 この後、途中で雨宿りをした庵室にいたのが六十近い尼。お賎はこの尼が自分を十三年前に置き去りにした母親であることに気づくが、この尼の過去の話を聞くと新吉は、彼女こそ深見新左衛門の妾・お熊であり、二人が成した娘が今夫婦となっているお賎であるという恐ろしい事実を知る。しかもお賎が鉄砲で殺した甚蔵も宇田金五郎という者とお熊の子だったのだ。

 新吉は改心を決意し、お賎とは夫婦の縁を切り、この尼僧のもとで働くことにする。ある日出家して宗観となった惣吉がこの庵にやってくる。新吉は因縁の草刈鎌でお賎を突き刺し、惣右衛門殺害を自白したのち、自害する。するとお熊(比丘)が宗観の母を殺し、金を奪ったことを自白しまた草刈鎌で自ら果てる。

 宗観は還俗して惣次郎の敵、安田一角を花車の力を借りて討ち果たし、羽生村に戻って、名主役となり惣右衛門の名を相続する。 


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