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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2007050002 京極夏彦 覘き小平次 2002 日本 CNOVELS

評者:発起人    評価:9   読了日:2007/05/04  公開日:2007/05/05

京極夏彦によってふたたびよみがえった幽霊小平次

 木幡小平次(こはだ・こへいじ)という男が主人公である。押入れの暗がりの中に居て、一寸五分の隙間から外を覘いている。お塚という女の家に住んでいるが、言葉もほとんど交わせない「廃り者(すたりもの)」である。しかし、幽霊役をやらせたら観客を恐怖のどん底に叩き込む、「素のままで幽霊そのもの」の男である。

 そんな小平次のところにお塚の妖艶な肉体目当てかよく顔を出す安達多九郎という男が玉川座の奥州興行に小平次の出演する話を持ち込んでくる。多九郎は玉川座の囃子方をしている。

 小平次は一座に同行、奥州興行は成功、しかも錦木塚という荒地では無関係なセリフを読んだだけで凶悪殺人犯の自白を引き出す。しかし小平次は相変わらずであり、褒美の大金を手にしても気味の悪い、影の薄い存在のままである。

 人殺しを繰り返してきた動木運平(とどろき・うんぺい)とその手下、一座の立女形の玉川歌仙そして多九郎たちはそれぞれの動機から安積沼(あさかのぬま)に小平次を釣りに誘い出して沼に沈めて殺害する。

 ところがその知らせが届く前夜、小平次はお塚のもとに戻っていたのである!

 京極夏彦(きょうごく・なつひこ、1963-)が2002年に発表した本書の巻末にある「関連文献」には江戸時代の戯作者、山東京伝(さんとう・きょうでん、1761-1816)による『復讐奇談安積沼(あさかのぬま)』(1803)、『安積沼後日仇討』(1807)が筆頭にあげられている。しかし、その後もこの物語はほかの作家たちにも取り上げられているらしく、さまざまな変容が加えられてそれぞれの作家の作品の題材となってきたようなのである。

 そしてその系列の末尾に本書が加わった。

 本書では『巷説百物語』(1999)シリーズでおなじみの「事触れの治平」が重要な役割を果たす。(思い起こすとこの京極夏彦の「古典改作シリーズ」の第一弾、嗤う伊右衛門』(1997)に治平も「小股くぐりの又一」も登場していたのである。)物語の展開につれて、主要登場人物たちの暗澹たる、救いようのない過去と関係が明らかになってくる。そして最後には血まみれの結末が待っている。小平次はどうなったのか?

 結末はどうあれ、オリジナルの小平次は後世に物語を残したのであり、この作品によってまたよみがえったのである。

  物語はどのようにして誕生し伝えられていくのか。現代のようにプロの作家が、編集者がいて、高度な技術に基づく出版ビジネスがあり、さらには映像化されるような仕組みが出来上がる前にはどのようにして物語は誕生し変容を遂げながら伝えられていったのか。そんなことも考えさせる傑作である。

 さて、私の京極作品全巻読破プロジェクトはすでに『陰摩羅鬼の瑕』(2003、講談社文庫)に突入した!


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