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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2007040005 藤沢周平 暗殺の年輪 1973 日本 文春文庫

評者:発起人    評価:8   読了日:2007/04/19  公開日:2007/04/21

藤沢周平の直木賞受賞作を含む初期作品集

 没後10年を過ぎても人気の衰えることを知らない藤沢周平(ふじさわ・しゅうへい、1927-1997)が確固たる地位を築いた作品集。

 本屋さんの時代小説コーナーに行くと熱心に藤沢作品を見ている人たちは現役のサラリーマンというよりも引退されたと思われる年齢の人たちが多い。かといって忘れられていくかと言えばドラマ化・映像化は目白押しである。

 本書に収録されているのは五編、いずれも江戸時代の(下級)武士や町人、職人たちを主人公・登場人物として配している。

「黒い縄」:出戻りのおしの、幼なじみでお上から追われる身である宗次郎、彼を追う引退した岡っ引の地兵衛が絡み合い、悲劇的な真相と結末に読者を引きずりこむ。

「暗殺の年輪」(第65回直木賞受賞作):葛西馨之介(けいのすけ)は父・源太夫を三歳のときに失い、母・波留と二十年暮らしている。父はこの東北地方の小藩、海坂(うなさか)藩の政争に加わり重臣暗殺に失敗し切腹したのである。ところが今度は馨之介がその時の重臣・嶺岡兵庫の暗殺を反嶺岡派に持ちかけられる。

「ただ一撃」:庄内酒井藩に仕官を求めてやってきた清家猪十郎という男との試合で藩の剣の使い手たちが次々と倒されていく。藩主を目の前にしてである。これでは面目が立たないと白羽の矢を立てられた刈谷範兵衛は隠居した六十ぐらいの老人(当時の基準では)である。嫁の三緒に身の回りの世話をしてもらっている耳の遠い範兵衛は十日の猶予を願い出るが・・・。

「溟い海」:主人公はあの葛飾北斎である。「富嶽三十六景」で大当たりを取った風景画の巨匠であるが、すでに七十である。子どもたちとの関係もよくない。耳に入ってくるのは広重という男の画いた「東海道五十三次」の評判である。北斎はついには広重を襲わせようとするのだが、広重は「・・・人生である時絶望的に躓き、回復不能のその深傷(ふかで)を、隠して生きている者の顔」をしていた・・・。

「囮」:版木師でときどき下っ引き(岡っ引きの配下)をしている甲吉が張り込みを命ぜられたのは逃亡中の殺人犯・綱蔵の情婦おふみの住む長屋だった。綱蔵は現れない。おふみに次第にひかれていく甲吉はある日おふみの家に入り込んだ無頼漢二人からおふみを助けるのだが・・・。

 いずれの作品にも謎と展開、意外な結末があり、登場人物たちの真摯な生き方があり、男女の愛憎があり、作者が描く江戸時代の美しい空気や光がある。

 なかなかこんな文章は書けるものではない、と私ごときが言うべきことではない。私ごときが言っても意味はないが脱帽である。 


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