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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2007010001 井上勝生 幕末・維新 シリーズ日本近現代史@ 2006 日本 岩波新書

評者:発起人    評価:6   読了日:2007/01/04  公開日:2007/01/04

野蛮と侵略の芽はすでに維新政府にあった

 よしっ、今年は歴史の勉強だっ!などと決意して読んでみたのがこの岩波新書の全10冊シリーズの1冊目。

 本格的に歴史を勉強したことのない私が持っている幕末・維新のイメージといえば、天下泰平を貪っていた江戸についに現れた黒船=欧米列強諸国が触媒となって世界の状況に合わない江戸幕府が倒れ、富国強兵・近代国家へと邁進していったというイメージである。

 ここで悪者は無能な江戸幕府指導者たちであり、「正義の味方」は坂本竜馬だとか勝海舟だとか立場の違いはあっても広い視野で島国根性を脱したビジョンを持っている英雄たちである。

 そしていろいろ犠牲もあったがとにもかくにも近代国家日本が成立した・・・。

 しかし、このように単純に片付けてしまうのは司馬遼太郎やテレビドラマで歴史を理解しようとするからである。

 北海道大学教授の著者・井上勝生(いのうえ・かつお、1945-)が近年の研究成果をも取り入れて概説しているこの本によると、そうしたイメージは勝者である明治政府が作った「物語」の影響を真に受けているからということになるだろう。

 たとえば、日本は鎖国で平和ボケしていたわけではなく、一部の幕府上層部だけだったかもしれないが世界情勢の把握もオランダや漢訳された欧米の書物などを通じて正確であった。ペリーや各国の特使が開国を迫った交渉においても理路整然と是非をとき、一方的に屈服したわけではなかった。

 ところが、頑固な攘夷論を唱える孝明天皇とこれを政治的に利用して権力奪取に走った「激派」、徳川幕府と雄藩との連合政権を目指す公武合体派などの熾烈な政治・軍事闘争の結果、中央集権的な上からの近代化を進め、幕末に芽生え始めていた議会制や合議制の下からの改革機運や民衆運動を叩き潰し、見かけだけの小強国政権が確立するのである。

 アイヌや琉球、台湾や朝鮮に対しても支配を拡大し、列強の利害対立などをたくみに利用して日本の「近代化」は促成栽培で作られたのである。

 朝廷を政治利用し、万世一系、神国思想の原型もこうした激動の時代に公認イデオロギーとして確立した。

 このシリーズの第一巻を見る限り、この急激な改革に対抗する戦略を持つ政治勢力はまだ明確には現れていない。(あえて言えば岩倉使節団が欧米を視察しているときの土・肥中心の「留守政府」の一連の政策はひとつの可能性の要素を持っていたといえるかもしれない。)

 明治新政権は民衆にはより過酷な圧制を、他方ではより合理的な収奪の仕組みと資本制経済を新しい建国神話(イデオロギー)で理論武装して確立したのである。民衆は総体としては変革の主体としては無力だった。一揆や打ちこわしがこの時期激化したことは事実だが、圧倒的に強い軍事力を持つ政府側に潰された。

 それにしてもなぜ「王政復古」だったのか?なぜたとえば薩長連合政権にならなかったのか?より根本的な疑問は氷解しないのである。

 さて、シリーズAは牧原憲夫 『民権と憲法』(2006)だが、どうしようかな。


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