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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2006090002 京極夏彦 絡新婦の理 1996 日本 講談社文庫

評者:発起人    評価:10   読了日:2006/09/17  公開日:2006/09/18

「あなたが−蜘蛛だったのですね」−京極堂シリーズ第5弾!

 分厚い!文庫版で解説も含めてだが1389ページ!しかし読み終わってまた最初のページを開かせるほどの力を持った作品である。(まあこれは私の記憶力減退という問題もあるが、そのような仕掛けがこの小説にほどこされているからである。)

 すでに10年前に刊行されたこの作品で京極夏彦(きょうごく・なつひこ、1963-)はその小説世界を立体化・現実化することに成功している。

 もちろんこれはフィクションである。しかしそもそも現実とは何だろうか?現実が現実感を失って感じられることはたびたびある。しかし本書のように現実感が希薄なテーマを描いていてなおこれだけの現実感を構築しているのはやはり作者の超絶的な才覚と努力と意識的な方法の所以であり、この点で現在京極夏彦を超える書き手はいないのではないだろうか。(もちろん私の読んだ狭い範囲のことではあるが・・・)

 今回の凄惨な連続殺人の中心にいるのは蜘蛛である。「斑蜘蛛(まだらぐも)、一名女郎蜘蛛は中国名を絡新婦(ロスインブウ)と云う・・・」(p879)と中禅寺秋彦=京極堂が述べている妖怪である。タイトルも「じょろうぐものことわり」と読ませている。

 このまるで小説における作者のような位置にいる蜘蛛が張り巡らせた横糸と縦糸の中を登場人物たちは駆け回るのである。横糸と縦糸が交錯する点に遭遇しても登場人物たちは気づかない。これを看破し憑き物を落とすのが中禅寺秋彦=京極堂の役割だ。

 東京警視庁の刑事・木場修太郎は両眼を錐で突き刺す「目潰し魔」の仕業と思われる連続殺人事件の犯人を追う。

 千葉にある「ミッション」系「聖ベルナール学院」の生徒、呉美由紀は学園内の伝説「黒い聖母」や黒ミサや売春を行う組織「蜘蛛の僕」の謎に迫るが関係者が次々と殺されていく。

 釣り堀の番人、伊佐間一成(いさま・かずなり)は千葉の素封家・織作家に滞在することになるが、そこでも殺人事件に直面する。

 「目潰し魔」、「聖ベルナール学院」、「織作家の事件」を周到に自らの手は汚さず配置していた蜘蛛の存在?謎は解かれても解かれても堂々巡り?伊佐間と織作家に滞在していた古物商・今川雅澄の依頼で重い腰を上げた中禅寺は次々と関係者の憑き物を落としていくが、犯罪計画は止まらないどころかかえって速度を上げる結果に導いてしまう?

 そして、蜘蛛はほんとうに蜘蛛なのか?

 京極堂の舌鋒はますます鋭さを増している。本作ではフェミニズム(女権拡張主義)やジェンダーの問題が重要な背景として取り入れられていて、京極堂と相手(複数)との論戦・会話だけでも知的興奮を掻き立てるに十分である。

 今回も前作『鉄鼠の檻』(1996)のときのように登場人物表を作ろうかと思ったが、そのためには第一作『姑獲鳥の夏 』(1994)にさかのぼって作らなければならないなと考え、これは今後の課題として断念したのである。

 さて次は京極堂シリーズ第6弾『塗仏の宴 宴の支度』(1998、講談社文庫)を読むか、それとも京極堂は休憩して嗤う伊右衛門』(1997、角川文庫←中央公論社)に行くか。


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