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感想文番号 |
著者 | 書名 | 刊行年 | 刊行国 | 出版社 |
| 2006080004 | 森絵都 | 風に舞いあがるビニールシート | 2006 | 日本 | 文藝春秋 |
評者:発起人 評価:9 読了日:2006/08/11 公開日:2006/08/13
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正統派小説を目指す作者の意気込みが伝わる第135回直木賞受賞作を含む短編集 |
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別に小説に正統も異端もないとは思う。しかし伝統的な小説の持っていた安定感をずらしたり壊したりすることではじめて読まれるという作品が多すぎるような気がする。また筆一本で勝負しないで、作者自身のキャラ作りや設定の異常さでつっぱしるタイプの小説が今や主流である。 しかしやはり小説家はそれだけではいかんのであるよということを教えてくれるのが本書である。この短編集には六編の作品が収められているが、語り手もテーマもすべて違う。つまりそれぞれの作品に出てくる登場人物や設定は使い捨てである。これは作者にとって平坦な道ではないと思う。 すでに作者の森絵都(もり・えと、1968-)は児童文学の世界ではあらゆる賞を総なめしている大家である。にもかかわらずあえて書きにくい正統派小説の茨の道に果敢に挑戦しているのである。 「器を探して」での辻弥生は今や有名人になった伊形ヒロミの秘書役のような仕事をしている。ヒロミの作るケーキに惚れ込みアンテナショップの出店から仕えてきた弥生だがプディングの撮影に使う器を探せというヒロミの命令でクリスマスイブなのに、付き合っている高典からのディナーの誘いも断って、美濃焼の本場、岐阜へ出張する。そこで弥生が見つけた器とは? 「犬の散歩」の恵利子は<スナック憩い>でアルバイトをしているが主婦である。夫の弘司の稼ぎが少ないわけでもなく、子どももいない二人暮しなのにいったい何のためにスナックで働き始めたのか?実は彼女は引き取り手のない犬の里親を探すボランティアをしている。「夫の収入をあてにしてボランティアにとりくむ自分」(p93)に矛盾を感じたのである。 「守護神」での山代祐介は三十歳だがホテルでバイトをしながら大学に通っている。社会人学生のためにレポートを代筆してくれるという伝説の「ニシナミユキ」に会うために彼は奔走するが・・・。 「鐘の音」で本島潔は二十五年ぶりに昔働いていた仏像の修復師のもとを訪れた。二十五年前、潔が惚れ込んだ仏像が秘めた謎が明らかになっていく・・・。 「ジェネレーションX」の野田健一は顧客からのクレーム対応でメーカーの担当石津直己と宇都宮まで車で向かう。途中石津の携帯での会話を聞くともなしに聞いていると彼が明日何か重大なイベントの幹事役をやっていることがわかってくるが・・・。 表題作の「風に舞いあがるビニールシート」は三浦しをんの『まほろ駅前多田便利軒』(2006)とともに第135回直木賞を受賞した。里佳は外資の投資銀行からUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)東京事務所に転職した。収入の面では大幅なダウンである。誇りを持てない仕事と外資系特有の成果主義プラス日本人上司からのくだらない付き合い強要に辟易したのだ。徹底的に現場(フィールド)にこだわり資金難の中難民たちの救済に当たる仕事をしているこの国連機関で里佳はアメリカ人のエドと知り合い、結婚するがフィールドにこだわるエドとは「体の相性」以外はすれ違いの生活を強いられる・・・。 いずれの作品も現代を生きる個人の喜怒哀楽を現実社会から遊離しないところで捕らえている。またいささか予定調和的ではあるが(というか短編小説の宿命か)しっかりと一人一人の主人公に結論をつけさせている。特に表題作の与える感動は群を抜いている。 じっくり味わいたい作品集である・・・とここまで書いて書店のカバーを取ってこの本の帯を見ると、「自分だけの価値観を守って、お金よりも大事なものを持って生きている−。」というコピーが目についた。さすが、うんそうだ、そういう近頃めずらしいがほとんどの日本人がそういう生き方をしたいと思っている人たちを作り出したからこそこの本は感動を与えるのだ。 |