感想文番号

著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2006070005 新堂冬樹 黒い太陽 2006 日本 祥伝社

評者:発起人    評価:8   読了日:2006/07/20   公開日:2006/07/21

キャバクラ業界を舞台とした愛と挑戦の物語−実用的知識も満載

 これを一冊読めば一度もキャバクラに行ったことのないあなたもこの厳しい業界のシステムと表裏がわかる。さあそれでもあなたはキャバクラに行くか(で勤めるか)。

 逆にすでにキャバクラの客であるあなたにはこれだけリアルに描かれると通う気が失せてしまうかもしれない。なにしろ華やかで美女(キャストと呼ばれる)たちと「擬似恋愛」を楽しむ場の裏にこれほどのしのぎを削る努力と戦いが繰り広げられていたとは、よほどのプロでない限り想像はしていないだろう。

 キャバクラで起業しようなどととんでもないことを考えているあなたはどんな世界でも甘くは無いということを思い知るだろう。

 キャストたちの人事管理はキャバクラ経営者にとってまさに死活問題である。採用、接客や営業などの教育、チームとしての一体感を作り出し同時に競争意識をかきたてるバランス、競合店からの引き抜き防止と競合店のトップキャストの引き抜き等々、女性の戦力化などというテーマを背負う悩める一般企業の中間管理職にとっても参考になるところが多いはずである。

 キャバクラに興味も関心も無く、サラリーマンでもないあなたにとってもしかしキャバクラ業界の覇者を目指す挑戦者・立花篤(たちばな・あつし)と若くして「風俗王」と呼ばれている藤堂猛との息詰まる戦い、店の成功を左右する千鶴をはじめとするキャストたちの愛・憎悪・策略・裏切り渦巻く世界に引き込まれてしまうだろう。

 目的が善や愛であればどんな手段を使ってもかまわないのか、いや汚い相手と手段を選ばず対決しているうちに結局同じ穴のムジナになってしまっているじゃないかと悩む立花の姿は純粋ささえ感じさせる。そういう意味で普遍的なテーマを描いていると言っていい。

 うーむ、これはキャバクラ版「明日のジョー」みたいなものだな、夢中になるのも当然だと思っていたら、この小説はすでにコミック化され「週刊漫画サンデー」誌上で連載中だという。(画:笠原倫)

 そして7月28日からはTV朝日系で連続ドラマ化され放送開始である。(永井大、伊原剛志、井上和香(→って「まんま」じゃないか、失礼。)など出演)

 さて、立花と藤堂の戦いは?美しく優しいキャスト千鶴の愛はどちらに傾くのか?立花は夜を照らす「黒い太陽」になれるのか?

 しかし本編では全部決着がついていない、続編があるような気がする。いやなくてはならない。ぜひ作者の新堂冬樹(しんどう・ふゆき、1966-)にはこの運命的な「三角関係」と勝負の行方を書き続けてもらいたい。

 さて、この本によると、なぜキャバクラが流行っているのか?少々長い引用をさせてもらう:

「・・・若い女とつき合う機会に恵まれず、会社では上司と部下の板挟みにあい、家庭では女房に小言を言われ子供には疎まれる中年層の客にとって、金さえ払えば若く美しいキャストが酒を作ってくれ、お酌をしてくれ、トイレに立てばオシボリを持って出迎えてくれ、つまらない話でもいやな顔ひとつみせずに真剣に耳を傾けてくれ、俗に言うおやじギャグにもウケてくれるという空間は、大袈裟ではなく天国だった。」(p26-27)

 なるほど。


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