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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2006060001 佐藤雅美 恵比寿屋喜兵衛手控え 1993 日本 講談社文庫

評者:発起人    評価:6   読了日:2006/06/06   公開日:2006/06/09

江戸時代の民事裁判の世界へようこそ−第110回直木賞受賞作

 喜兵衛は馬喰町界隈に集中する旅人宿の主人である。しかしただの旅館ではなく、公事訴訟事(民事訴訟)を抱えて江戸で裁判を受けるために田舎から出てきている人たちを泊め、煩雑な役所の手続きなどを代行したり奉行所に付き添ったりもする。

 今で言う民事弁護士か司法書士のような機能を果たしてもいたのである。もちろん裁判とは言っても現在の(建前)のように三権分立も無く、検察と警察も民事と刑事の区別も曖昧である。お調べの場も時代劇のドラマでおなじみのお白州であり、拷問も認められている。

 そんな喜兵衛の宿に越後からやってきたのは身に覚えの無い借金の請求を受け、返還訴訟を起されたと主張する男の弟・六助だった。六助の兄は特産品の縮を納入せず代金だけを受け取ったとして訴えられている。裁判は江戸で行われるのでその代人として六助が出てきたのだという。六助によるとまったく逆に兄は特産品の縮を納入したのに前渡し金しか受け取っていないと主張している。訴えている正十郎の代人は留吉というが、六助側は正十郎などという男には会ったこともないと主張する。

 はたして喜兵衛が疑ったように正十郎側は古い借金の証文などを集めて回収するいわゆる公事師なのか?それとも六助の側に何か隠し事があるのか?双方の主張は真っ向から対立する。

 取調べにあたった吟味方与力・仁杉七右衛門は双方の矛盾をついて真相に迫っていくのだが、他方で喜兵衛は客のために公事のことを考えているだけではなく複雑な家庭事情をかかえ、また公事宿(業界)の世話役のようなこともしていてほかにも考え事は山ほどある。

 そうした中、喜兵衛は二度も命を狙われる。

 はたしてこの訴訟と関連があるのか、それとも別の絡みで襲われたのか?

 私にとってはめずらしい江戸時代の民事裁判がわかりやすく描かれているだけではなく、喜兵衛の悩みや訴訟関係者などのほかの登場人物もうまく書き分けられている。プロットは複雑すぎるきらいがあり、推理小説的に見るといささか偶然や感に頼りすぎるところはあるが、着眼点のよさで楽しめる作品になっている。

 本作で作者の佐藤雅美(さとう・まさよし、1941-)は第110回直木賞を受賞している。 


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