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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2006050006 石川英輔 大江戸神仙伝 1979 日本 講談社文庫

評者:発起人    評価:7   読了日:2006/05/20   公開日:2006/05/20

中年男が江戸時代にタイムスリップ!−不思議で面白い江戸時代旅行記

 

 「私」(速水洋介)は妻の病死を契機に中堅製薬会社の研究所を辞め科学技術ジャーナリストを始めた四十過ぎの中年男である。雑誌編集者で離婚経験者でもある尾形流子と付き合っていたがある頃から視覚に動き回る薄い影を見るようになる。

 そして、ついに日本橋の交差点で流子を残して、江戸時代・文政五年(1822年)の日本橋にタイムスリップしてしまう。影は江戸時代の人たちの動く姿だったのだ。

「やい、やい、やい。この唐変木めえ。いきなり人の鼻っ先へ降って湧いて来やがって、てめえはどこの馬の骨でえ」(p33)

 江戸時代の通行人もびっくりしただろう。周りは野次馬でいっぱいになるが医師の北山涼哲という男に助けられる。涼哲とその妻・多恵の世話になりながら、「私」は西欧化される前の純粋日本文化が完成したこの時代を体験していく。

 「私」は、「仙境」からやってきたということにして、当時は死の病であった脚気を米糠(ビタミンB1)で直したり、腕時計を売って大金を得たり、若い美人芸者の「いな吉」の旦那になってたりしてこの不思議な、しかしどこか懐かしい江戸時代を堪能する。読者も著者の石川英輔(いしかわ・えいすけ、1933-)の丹念な取材に基づく当時の町人たちの生活、江戸の地理・風景・社会・文化を洋介とともに体験するのである。

 貧しく、自由の無い暗黒時代どころか非常に合理的ですぐれた面を持っていた時代であったということを著者は強調する。江戸時代再評価の走りだろうか。また暦や時の数え方、通貨制度などもていねいにわかりやすく解説されている。

 心残りは流子のことであったが、都合良く、洋介は現代と江戸時代を往復する能力を身につける。便利で豊かな現代(そして流子)、不便だが安全で環境は格段にきれいな江戸時代(そしていな吉)との間を揺れ動く洋介であるが、最後に選んだのはどちらの時代だったのか。

 この作品はシリーズ化されているらしく、第7作の『大江戸妖美伝』(2006、講談社)が最新作。洋介は再び「転時」能力を身につけ、流子といな吉との間を揺れ動いているのだろうか。


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