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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2006050003 隆慶一郎 鬼麿斬人剣 1987 日本 新潮文庫

評者:発起人    評価:8   読了日:2006/05/08   公開日:2006/05/09

名刀工の師匠の過去を追いかける巨魁・鬼麿の旅

 

 小説家としての活躍期間はわずか数年だが斬新な構想力と筆力で時代・歴史小説に大きな足跡を残した隆慶一郎(りゅう・けいいちろう、1923-1989)の『吉原御免状』(1986)に続く第二作が本書である。

 主人公の鬼麿(おにまろ)は赤ん坊のとき雪の中に捨てられたが、漂白の民サンカ(山窩)に拾われ育てられた。今では身長六尺五寸(197センチ弱)、体重三十二貫(120キロ)の巨人であり、試し切り用の長刀で自己の半径八尺(約2.4メートル)内に入るものをすべて切ってしまう剣の使い手でもある。

 江戸で刀鍛冶の名工・清麿の弟子をしていたが、ある日この美男の師匠は腹を切り、死ぬ間際に自分がやむをえず「数打ち」した駄作を回収して折ることを鬼麿に懇願する。(この清麿は実在の人物であるらしい。)

 鬼麿はこうして江戸から中山道、野麦街道などを経て京へ向かう。途中で彼を妨害する伊賀同心たちや鬼麿の探索行によって悪事の露顕を恐れる連中をその鬼気迫る剣で斬殺しながら、清麿の遺志を実現していく。

 一番勝負の「氷柱折り」から「古釣瓶」、「片車」、「面割り」、「雁金」、「潜り袈裟」、「摺付け」、そして最後の八番勝負「眉間割り」に至るまで鬼麿の決め技が各勝負のタイトルとなっている。

 途中で山窩の孤児・たけや伊賀同心頭領の末娘でありながら鬼麿に女にされたおりんが一行に加わった。また各地で清麿を愛し、あるいは尊敬した人たちの助けをも借りて鬼麿は一本一本駄剣を発見し折っていく。

 最後に師匠が到達した境地とはどういうものだったのか。

 こう書くとストイックな剣豪あるいは刀工の世界を描いた作品のように思われそうだが、清麿の生き方のように飄々として自由で大らかな、一種の桃源郷を捜す旅になっている。

 最後には清麿の行動の謎も解け、今後の鬼麿の方向も見えてくる。

 歴史学者・網野善彦の理論(たぶん)を取り入れ、定住民の外にあって自由に移動して暮らしていた人々と定住民との関係も描かれていて興味はつきない作品となっている。 


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