感想文番号

著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2006040003 加納朋子 ささら さや 2001 日本 幻冬舎文庫

評者:発起人    評価:8   読了日:2006/04/06   公開日:2006/04/07

赤ん坊を育てることの喜び−少子化対策小説にどうだ?

 

 サヤはまだ首の据わらない赤ん坊ユウ坊とふたりでこの世界に残された。夫が交通事故であっけなく死んでしまったのだ。

 孫のいない夫の実家はユウ坊を跡継ぎにしようとサヤに親権放棄を迫る。唯一の身寄りだった伯母も亡くなったばかりだったサヤは泣いて暮らすしかないのだろうか。

 ところが、夫はサヤとユウ坊を守るため、サヤのピンチのときに別の人間に乗り移ってサヤの前に姿を現す。そしてメソメソ泣いてばかりいるサヤを救う。夫が乗り移れる人間には夫の姿が見えるらしく、乗り移っている間の記憶は消え、しかも同じ人間は一度しか「使えない」。

 サヤは伯母が遺してくれた古い小さな家のある佐々良(ささら)という田舎町に引越し、ユウ坊を取り上げようとする実家の手から逃れようとする。しかしなにぶん気が弱く、世間を知らず、涙腺が緩んでいるサヤである。もちろん育児の経験も無く読者をはらはらさせるのである。

 佐々良の住人で同級生だった三人の老婆たち(お夏、久代、珠ちゃん)、離婚した「ヤンママ」で派手なエリカとその息子ダイヤ、喫茶店のマスターなどがサヤとユウ坊のもとに引き寄せられ、助けてくれる。サヤも次第に強くなっていく。ユウ坊もだんだん大きくなっていく。

 全八話のこの連作小説はユウ坊だけではなくサヤの成長物語であるが、同時にそれぞれに謎が仕掛けられていて、合理的な答えが与えられている。加納朋子(かのう・ともこ、1966-)の本を読むのは始めてだが、日常生活の中の謎と推理による解決という点で立派なミステリーでもある。

 この小説を読んで大嫌いだと思う人は少ないのではないだろうか。つまり拒否度の少ない小説である。なぜなら赤ちゃんを育てること、守ることの苦労とそしてその数倍ある楽しさはほとんどの人(とくに女性にとっては)にとって(経験は無い場合でも)最高の価値を持つことだからである。

 薄幸のうら若き未亡人の頼りなさと、口が悪く変人だが面白い脇役たちの会話や行動も単にお涙ちょうだいの「感涙小説」に堕することから救っている。女王様と王子様を取り巻く臣下たちという例えもできるかもしれない。

 しかし最終章の切ない上品さはどうだろう。死者は忘れられなければならないのである。

 テレビ朝日系で4月14日から放送される「てるてるあした」(黒川智花、木村多江ほか出演)の原作らしいが、姉妹編(?)の『てるてる あした』(幻冬舎、2005)も読まずばなるまい。


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