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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2006020004 渡辺淳一 光と影 1970 日本 文春文庫

評者:発起人    評価:6   読了日:2006/02/21   公開日:2006/02/23

読みやすく疲れない−渡辺淳一の第63回直木賞受賞作を含む短編集

 

 今や文壇の大御所である渡辺淳一(わたなべ・じゅんいち、1933-)が直木賞を受賞した「光と影」を含む短編集である。

 表題作「光と影」。西南戦争(1877)に従軍し、共に右腕を負傷した陸軍大尉・小武敬介(作者が創造した人物か)と同期の寺内寿三郎(後の正毅。実在の人物)は大阪臨時陸軍病院で佐藤進外科部長から同じ日に手術を受ける。当時の医学水準では、切断が生き延びる唯一の方法だと考えられた。ところが、佐藤軍医はドイツの医学書に出ている腕を切断しない治療法の「実験」をやってみる気になった。小武は普通の切断手術、寺内には腕を生かす手術を施された。苦痛の大きさと治癒期間の長さは寺内のほうが圧倒的であったが、機能的には不全だがともかく寺内の腕は残った。小武は片腕となった。二人はその後対照的なまさに「光と影」の人生を送る。

「宣告」では末期癌に侵された大画家に、担当医・船津は芸術家としての最後の仕事をしてもらいたいと考えてあえて病状と余命を宣告する。はたして画家は船津の期待したように最後の傑作を残すのだろうか?それとも芸術家といえどもただの人間で死の恐怖に圧倒されてしまうのだろうか?

「猿の抵抗」での語り手「私」は医科大学付属病院に入院している。無職だが「学用患者」すなわち、「教科書通りの症状が揃っている」典型的な梅毒患者として医学生向けの講義材料として使われていて、生活費・入院費などの負担はゼロである。「私」は抵抗を試みる。学生たちの前で「典型的な症状」を示さないように密かに練習を重ねた。はたして、この抵抗はうまくいくのだろうか?

「薔薇連想」の主人公・氷見子は劇団の研究生だが夜は劇団の先輩のやっている「スナックバー」でバイトをしている。ある日彼女は足の裏に湿疹を発見する。水虫かと思っていたら「角化」してきたので医師の診察を受けると梅毒の症状であることがわかった。(私、一人だけなのは嫌だ)と氷見子はさまざまな男たちと関係を持ち、「仲間」を増やしていこうとする。

 いずれも病気や医師が重要な要素として登場する。しかし人生の深淵を垣間見せるような深刻さはない。さっと読めて、さっと忘れられる類の作品である。しかし読んでいる間は、発表から三十数年経っているのに、満員電車の中ででも十分に小説世界に入り込み楽しめる。


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