感想文番号

著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2006020001 粟野仁雄 アスベスト禍 2006 日本 集英社新書

評者:発起人    評価:6   読了日:2006/02/04   公開日:2006/02/04

また忘れてしまわないために−アスベスト問題の深刻さと政府の責任

 

 昨年の夏ごろから大きく報道され始めたアスベスト被害についての本である。

「みんなわかっていたことなのではないのか。どうしていきなり問題になりだしたのか?やはりこれも薬害エイズなどと同根で、健康より業界利益を保護するというこの国の政府の救いがたい体質の問題か。 」と私・発起人は2005年7月6日付けの日記で書いた。

 元共同通信社で現在フリージャーナリストの著者・粟野仁雄(あわの・まさお、1956-)はインタビューを積み重ねることで、今後さらに大きな被害が予想されるこの問題の全体像を提示してくれる。(「通信社を石もて追われて四年」(p218)だそうだが?)

 アスベスト(石綿)は天然の鉱物であり、国産品に加えてこれまで日本に一千万トン以上輸入され、さまざまな用途に利用されてきた。いったん体内に呼吸器を通じて吸収されると排出は困難で、数十年の潜伏期間を経て悪性ガンの一種である中皮腫や肺ガンを引き起こす。(実は今まで喫煙のせいとされてきた肺ガンの多くがアスベストによるものである可能性がある。)

 アスベストを生産したり、使用する工場やプラント、その周辺住民だけではなく、輸入時の荷役作業時や、広く建材として使われたため古い建物の建設・解体作業時に多くの人々がアスベストにさらされた。実はその実態さえほんの一部しかわかっていない。

「いずれにせよ、「現在の日本で、アスベストに触れずに生活している人は皆無」といえる。」(p37)

 著者は各地でこの問題に取り組んでいる人たちを取材することで被害の深刻さを浮き彫りにしている。また日本政府がアスベストの危険性について早くから認識していたのにかかわらず、積極的な対策を取ろうとせず、産業界の要請に沿った不作為によって、被害を拡大してきたことも読み取れる。

 「日本資本主義史上最大の産業災害」(宮本憲一)とも言われるこの問題、過去にも学校へのアスベスト吹きつけ問題(1987)や阪神大震災(1995)時の被害建物の解体時にマスコミが報道したが何となく世間からは忘れられた。今回もクボタなどが元従業員や周辺住民への被害に「見舞金」を払ったことで注目を集めた。

 いわゆるアスベスト関連四法が今年成立したそうであるが、これで一件落着というわけにはいきそうにない。忘れてはいけない問題のひとつとして、心にとどめておきたい。


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