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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2005120004 井上靖 氷壁 1957 日本 新潮文庫

評者:発起人    評価:5   読了日:2005/12/23   公開日:2005/12/23

冬山遭難、友情、美貌の人妻 −NHK土曜ドラマの原案となった文豪の長編

 

 2006年1月14日の土曜日午後10時から、6回シリーズで放映されるNHK土曜ドラマの「原案」である。普通は「原作」とクレジットされることが多いので、おそらくこの小説とは大きく変更されてドラマ化されているのだろう。(出演は玉木宏、鶴田真由、山本太郎、石坂浩二ほか)

 小説のほうは、当初「朝日新聞」に連載され、1957年に新潮社から単行本として刊行されている。晩年は毎年のようにノーベル賞受賞を噂された作者の井上靖(いのうえ・やすし、1907-1991)ではあるが、本編に関する限りさまざまな主題がうまく溶け合わず、十分に展開されないまま、最後は大きな不協和音を響かせて終わっている。

 うまく調理すれば大傑作になっていたかもしれない食材がそれぞれの旨みのさわりを読者に提示するだけで、全体の料理としては失敗している、そんな印象を持つのである。

 魚津恭太(うおづ・きょうた)は新東亜商事東京支社に勤めながら暇さえあれば登山とくに冬山の難コースに挑戦している。学生時代からの親友小坂乙彦(こさか・おとひこ)とは何度も二人で登っている。

 魚津は小坂が八代美那子(やしろ・みなこ)というまだ三十前後の女性をあきらめきれないでいることを聞かされる。美那子は大企業の専務で学者でもあるすでに六十歳近い教之助の妻である。一度自分で抑えきれない欲望から小坂と関係を持った彼女はしかし今では彼のことを何とも思っていないのである。ところが仕事・研究一辺倒で家にいるときはお茶を持ってこさせるだけの夫に無意識の不満を抱いてもいる。

 美那子との関係に悩む小坂は魚津と前穂高の難所登攀に向かうが、ナイロン・ザイルが切れて滑落死してしまう。遭難の真相をつきとめようとする魚津だが、マスコミや世間は切れるはずのないナイロン・ザイルが切れたのは無謀な登山計画や技術の未熟によるものだと魚津に批判的である。

 魚津の勤める会社の支社長で魚津を陰に陽に励ます常盤や小坂の妹で純粋に魚津を愛するかおりなどの登場人物を配して、物語は重厚さを増す。小坂の死後、魚津は(どういうわけか)美那子に魅かれていくのだが、その思いを断ち切るようにして再び冬山の難コースの単独行に挑戦する。

 人間の思惑や葛藤を拒絶する冬山(自然)と下界を逃れるように冬山に挑戦する登山家たちの心情の描写はさすがであるが、冬山とはまったく無縁の生活を送っている私などは暖かい部屋でドラマでも見ているのがいいのかもしれない。

 なお、この作品は1958年に監督・増村保造、出演・菅原謙二、山本富士子で映画化され、またNHKでもドラマ化されているらしい。今度のドラマ化は2度目ということになる。


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