感想文番号

著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2005100003 三井誠 人類進化の700万年−書き換えられる「ヒトの起源」 2005 日本 講談社現代新書

評者:発起人    評価:9   読了日:2005/10/12   公開日:2005/10/16

サルからヒトへの進化の道筋をわかりやすく解説

 

 現代日本では、ヒトはサルから進化してきたという知識は常識になっている。しかしいったいどのようにしてサルのような動物がヒトのような「万物の霊長」にあるいは地球環境をも破壊してしまうような恐るべき力を持つ存在になったのかについては私たちの知識は非常に心もとない。

 著者の三井誠(みつい・まこと、1971-)は読売新聞の科学部の記者であり、人類学者ではない。しかしだからこそ学者間の言葉を噛み砕いて、普通の言葉でこの謎についての最新の到達点を説明してくれている。

 それによると、現在のチンパンジーとヒトの共通祖先が別の道を歩み出したのは約700万年前のことである。この分岐を特徴づけるものは「直立二足歩行」と「犬歯の縮小」であった。

 この時点ではよくヒトの定義とされる「言語の使用」(約7.5万年前)や「火の使用」(約80万年前)も、「脳の大型化」(250万年前から始まる)もなかったのである。

「初期の人類は、「立っただけのチンパンジーのような動物」と言えるかもしれない。」(p14)

 この最初のヒトの祖先はアフリカ大陸で生まれた。「直立二足歩行」をするサルが生まれたのである。なぜヒトのご先祖様たちは立ち上がって歩くようになったのか?これについては決定的な定説はなく、さまざまな説が主張されているという。

 そのなかのひとつに「食糧提供仮説」というものがある。森の中にいた初期人j類は気候の乾燥化によって広い地域で食糧を探す必要に迫られた。メスは子育てのためにあまり遠くまでは行けない。オスの中で「直立二足歩行」をはじめた連中はより多くの食糧をメスに運べるということになり、この性質が自然淘汰の過程で広まったというのである。(うーむ、よりたくさんお金を持って帰る男が好まれるというのと同じか。)

 そのほか現在主張されている諸説が紹介されているが、なかには「臨死体験」を経たサルが直立二足歩行を始めたなどというとんでもない(としか感じられない)説もあるそうだ。

 そもそも「進化」とは何かということを問われてきちんと説明できる人は少ないのではないだろうか。それにこの言葉自体、程度の低い存在から高い存在へ梯子を登りつめるような予定調和的な過程であるという響きがある。

 著者によると、「進化は目的を持って進むのではなく、遺伝子に起きる偶然の変異、それがもたらす体や行動の変化がそもそもの始まりだ。生物は目標を持って、何かをする「ために」進化するわけではない。「ある遺伝子の変異で獲得した性質が、そうでない個体よりも優位だった(つまり繁殖に成功した)かどうか」が問題だ。」(p55)

 私などが昔学校で習い頭にこびりついている、猿人→原人→旧人→新人という直線的進化の概念を一新してくれるような多様な進化の有り様を最新の学問的成果を援用しながら教えてくれる。また自らが属しているこのヒトという動物についていろいろなことを考えさせてくれるだけでなく、話題作りにも役立つ好著である。


作家別一覧:  1 2 3 4 5 6 7 8

刊行年別一覧: 1 2 3 4 5 6 7 8

Home