感想文番号

著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2005070010 貴志祐介 硝子のハンマー 2004 日本 角川書店

評者:発起人    評価:8   読了日:2005/07/29   公開日:2005/07/29

完全密室殺人の謎に挑む弁護士・青砥純子と「防犯コンサルタント」・榎本径

 

 いつも思うことであるが、現代において本格推理小説はなかなか成り立ちにくいのである。携帯電話はある、監視カメラもある、DNA鑑定もある、インターネットも監視可能であり、つまり犯罪者は眠れないのである。

 ましてや、そのような犯罪、とくに不可能犯罪を描いて読者と知恵比べをしている類の推理作家は日夜不眠不休の日々を送っているに違いない。

 今回ご紹介する『硝子のハンマー』(2004)で『剣と薔薇の夏』(2004)の戸松淳矩とともに第58回日本推理作家協会賞を受賞した貴志祐介(きし・ゆうすけ、1959-)はもともと本格推理畑の人ではなく、ホラー/スリラー系の作家である。(とは言っても本作でデビュー後やっと6作目)

 それなのにこれは不可能犯罪の華というべき密室殺人事件である。しかも超自然的な要素はなく、また超人的な人物が出てくるわけでもない。

 六本木センタービル(通称ロクセン)の最上階12階でテナントの介護会社ベイリーフの社長が自室で死体となって発見された。そして社長室と中のドアでつながっている自室にいた専務が逮捕される。

 この専務だけが物理的に犯行が可能という言わば消極的な理由で逮捕されたのである。弁護にあたっている青砥純子が紹介を受けて訪ねたのは「防犯コンサルタント」を名乗る榎本径(♂)であった。

 榎本は青砥とともに、一見不可能に見える密室殺人の謎を解き明かそうとする。この探偵役がたいへん個性的であり魅力的である。コンサルタントの仕事自体、犯罪者側の手口や最新機器について通暁していなければならない。セキュリティを破るために一番の近道はセキュリティを知っていることなのである。この表の仕事が実は裏のカモフラージュなのか?

 さまざまな可能性が仮定され検討される。榎本は実際にこの建物に自ら忍び込み、どのようにこのビルのセキュリティを突破し、密室殺人を行えるかを実証しようとする。可能性がひとつひとつ消去されていくが・・・。

 前半で密室の謎が解けなかった人のために(私も解けませんでした!)、後半部、犯人の側から語られたこの物語の解答編が用意されている。しかしこれは単に解決を提供するにととまらず、この物語をより立体的で深いものにすることに成功している。

 次は著者にはぜひ、この青砥・榎本のコンビで丸ビルや六本木ヒルズなどのさらに難易度の高いと思われる最新鋭インテリジェンスビルでの密室殺人に挑戦してもらいたい。うう、でもこういう類の小説ばかり書いていると胃に穴があくかもしれません。ご自愛を。 


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