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感想文番号 |
著者 | 書名 | 刊行年 | 刊行国 | 出版社 |
| 2005070008 | 戸松淳矩 | 剣と薔薇の夏 | 2004 | 日本 | 東京創元社 |
評者:発起人 評価:8 読了日:2005/07/25 公開日:2005/07/25
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日本からの使節団を迎える1860年のニューヨークで発生する連続殺人事件
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時は1860年(万延元年)夏、所は米国ニューヨーク。この急激に膨張しつつある人口80万人の大都市は日本からのサムライ使節団を迎えるために浮き足立っていた。 異国日本への興味・関心が高まり、素直に歓迎しようという人たちの気持ちもなおいっそう新聞や週刊誌によって煽り立てられる。いっぽう、この使節団を政治や商売に利用しようという人たちも陰に 陽に努力するのである。 こうして次第にお祭り気分と期待が高まるニューヨークで奇怪な殺人事件が連続発生する。現場に残された旧約聖書のページからの切り抜きと不可解な死体への処置。犯人が残したと思われるこのメッセージは何を意味しているのか。 週間新聞『アトランティック・レヴュー』社の古参記者、ウィリアム・ダロウ(46)はいわば遊軍的な立場で使節団を取材しているが、同時にこの殺人事件の謎を解こうとする。 日本からの漂流民でフィラデルフィアの貿易商社に勤めていたのをダロウが引っ張ってきたジューゾ・ハザーム(狭間十蔵)や同僚の挿絵画家フレーリ、使節団の宿舎で歓迎委員会のスペースも提供している「メトロポリタン・ホテル」の幹部や従業員、歓迎委員会の面々、そしてニューヨーク市警の警察官たちにサムライ使節団など多様な登場人物たちの行動で、この事件の背景が丁寧に描写される。当時のニューヨークの街と人々、サムライ使節団をめぐる反応を描いたこの小説の実は太宗を占める歴史小説的部分が面白いのである。 1860年の夏と言えば、翌年に始まる南北戦争や秋の大統領選挙でのリンカーン当選を前にして、黒人奴隷制維持を主張する南部諸州と北部との対立が高まっていた時期である。奴隷逃亡を助ける「地下鉄道」というネットワークが確立されていたが、同時に逃亡奴隷を捕獲する「奴隷狩り」の連中も組織を持っていたのである。(ちなみに前者は違法であったが、後者は合法であった!) 意外な犯人と動機、合理的な解決とフェアな手掛かりの提示など本格ミステリーとしての切れ味はかなり鋭い。 それにしても、この小説の基本構造、つまり日本語で書かれているのに、語り手の視点はあくまでも1860年の米国人の視点であるというこの一種の倒錯した構造、悪いとは言わないが、米国で逆の立場の小説が書かれたことはあるのだろうか?たとえばペリー艦隊に動揺する江戸で発生する連続殺人事件を江戸の岡引や瓦版売りが解決していく小説が英語で書かれたことはあるのだろうか? この作品での文体であるが、ひとつの文章がかなり長く、文章の中に二重・三重の否定形が入るというこのスタイル、最近読んだ高村薫の『マークスの山』を思い出させた。 なお、この作品で作者の戸松淳矩(とまつ・あつのり、1952-)は第58回日本推理作家協会賞を受賞した。著者は1979年に『名探偵は千秋楽に謎を解く』(ソノラマ文庫)で作家デビューしたが、第二作『名探偵は九回裏に謎を解く』(1980、ソノラマ文庫)以降は本作まで単行本は発表していなかったという。今後のいっそうの活躍を期待したい。 |