感想文番号

著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2005070003 アーサー・コナン・ドイル 失われた世界 1912 イギリス 創元SF文庫

評者:発起人    評価:6    読了日:2005/07/13    公開日:2005/07/13

大英帝国が自信に満ちていた時代の探検小説

 

 この狭い地球にすでに未知の場所などないと考えがちな私もしかし最初にその未知の場所を踏破する人の勇気には賞賛を惜しまない。いずれにせよ私が知るのはそうした探険家たちの努力によってなのである。

 1912年にコナン・ドイル(1859-1930)が発表したこの作品も、私は子どもの頃、世界少年名作全集の類で抄訳を読んだことがあり、夢中になったことをよく覚えている。

 しかし、それから三十有余年、恐竜に関する私の知識も増え、探検小説というものがどうも欧米の植民地主義などと深い関わりがあるらしいという余計な考えも蓄積されたせいか読んで「素直にうれしい」というわけにはいかなかった。

 語り手の「わたし」(エドワード・マローン)は『デイリー・ギャゼット』紙の若手記者。恋するグラディスにプロポーズしようとするが、「わたしたちのまわりには、なされるのを待っている英雄的行為がいくらでもあるわ。それをするのは男の人で、そういう男にささげる報酬として愛を大切にしまっているのは女なのね。」(p15)などと言われ、偉大な冒険を探すのである。

 見つけたのは動物学者のチャレンジャー教授。教授はアマゾン探検で絶滅した恐竜などが今も生きている場所を発見したと主張していたが、学会からは相手にされていなかった。

 そして動物学会の委託により、比較解剖学者のサマリー教授、探検家のジョン・ロクストン卿とともに、チャレンジャーが発見したというアマゾン奥地の台地に向かって出発することになった。

 この小説のほとんどは、最初に発見したアメリカの詩人の名を取って「メイプル・ホワイト台地」と名づけられたこの失われた世界への探検と、そこで一行が出会う驚嘆すべき太古の生き物や猿人、インディアンたちとの戦いの描写に費やされる。

 強烈な個性の持ち主・チャレンジャー教授、学者としての懐疑主義でチャレンジャーとことごとく対立するサマリー教授、行動派であるジョン卿そして記述者としての「わたし」(マローン)というこの四人のパーティが愉快である。

 当時は圧倒的だった大英帝国の自信に裏打ちされているからだろう。四人は理性的であり、行動的であり、ユーモアを忘れず、困難にあっても決してあきらめることなく立ち向かい、敵対するものは絶滅動物であろうが猿人であろうが圧倒的な武力で容赦なく叩き潰し、最後の勝利を信じて疑わないのである。

 絶体絶命の場面にもどこか余裕が感じられるのであるが、英国特有のいい意味での強がりなのだろうが(テロ攻撃を受けたロンドン市民の対応を見よ)、余裕でスリリングなどという 小説があまり面白くないのは当然である。

 しかしこの『失われた世界』の基本的な発想自体はそれにもかかわらず不滅である。

 今では遺伝子工学や複雑系の理論などの助けがないとリアリティが感じられなくなっている恐竜の世界はマイクル・クライトン『ロスト・ワールド』(1995)や映画あるいは恐竜博などで味わうのがいいのかもしれない。


作家別一覧:  1 2 3 4 5 6 7 8

刊行年別一覧: 1 2 3 4 5 6 7 8

Home