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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2005060004 あさのあつこ バッテリー 1996 日本 角川文庫

評者:発起人    評価:9   読了日:2005/06/07   公開日:2005/06/08

天才投手・原田巧が永倉豪とバッテリーを組んだ!

 

 プロ野球をテレビで見ていて思わず声を上げてしまうのは、ひいきのチームのエースが打ち込まれたときである。

「ヴァッカモーン、どこに投げてる?打ってくださいみたいな球投げるな〜っ!」などとえらそうにテレビに向かって叫ぶのである。

 しかしあらためて言うべきことではないが、プロ野球の一軍で曲りなりにもエースなどと呼ばれている投手はまさに一握りの天賦の才を持っているのである。

 思わず半徹夜状態で一気読みしてしまった、あさのあつこ(1954-)の『バッテリー』(1996)の主人公・原田巧(たくみ)はまさにそのような天才を持っているようだ。

 巧は父・広(ひろし)、母・真紀子、弟・青波(せいは)の一家とともに「おろち峠」を越えて岡山県新田市(新見市をモデルにしているのか?)に引っ越してきたばかりである。

 広は電機メーカーの営業をしているが体を壊したため、生まれ故郷でもある新田市に転勤になったのだ。真紀子も新田市の出身で一家が住むのは真紀子の実家だ。真紀子の父でかつては高校野球の監督としてならした井岡洋三がそれまではひとりで住んでいた。

 巧は引越しの前に住んでいた岡山市で少年野球ホワイトタイガースのエースだった。新田市では4月から新田東中にかようことになるが野球のことしか頭にない。強烈な自信家であるが、もちろんうぬぼれはない。

 そしてこの春休み、巧は同じ町で永倉病院の跡取り息子で同級生になる豪と出会い、バッテリーを組むことになる。(星飛遊馬と伴宙太の出会いのような)今後の物語の発端となることが予想されるような運命的な出会いなのである。

 しかしこの作品、単純なスポ根ドラマからは遠い位置にある。それは巧の周りに配された天才ではない登場人物がいきいきと描かれていて(とくに弟の青波がけなげである)、巧がかれらの願いや苦悩をこの春休みの経験を通じて理解し人間的に成長するという基本的視線がこの物語の中にあるからだ。

 自然や心象風景を描く文章も美しい。野球のシーンも自分がマウンドにあるいはバッターボックスに立っているように迫力を持って感じられる。ときどき文章の視点がキャッチャーである豪に跳ぶという些細な欠点はあるが、作者が気迫をこめて真向勝負を挑んでいることは伝わってくる。

 さてしかしまだ巧の野球は本格的には描かれていない。巧の人間的成長と野球の関係についても実は答えは出ていない。続きも読んでみようと思う。(このシリーズは2005年に出たYが最終巻だそうである。)


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