感想文番号

著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2005060002 垣根涼介 ワイルド・ソウル 2003 日本 幻冬舎

評者:発起人    評価:9   読了日:2005/06/05   公開日:2005/06/05

日本国政府へ復讐を挑むブラジル移民たちの戦い−読後感もさわやかな傑作

 

 ブラジルなど中南米を背景にした小説作品は数多い。しかし戦後の日本国政府が行ったブラジルなどへの移民政策(棄民政策)についてこの小説を読むまで私はまったく知らなかった。

 甘い言葉に釣られて希望の大地南米大陸に移民した日本人たちがそこで体験したのは政府の約束とはまったく異なる条件での過酷な自然との戦いだった。

 移民たちはだまされたのである。しかも外務省の役人、その外郭団体・企業は移民たちの訴えをまったく無視し、あまつさえ日本の家族からの送金を横領したりした。多くの移民たちが帰らぬ人となった。現地社会の最底辺で貧困と失望のなかで苦しんでいる人たちも数多い。

 この小説は現代日本人がほとんど知らない(私だけか?)この移民政策に責任を負うべき日本政府に復讐を挑む男たちの物語である。

 1961年にブラジル奥地の入植地クロノイテに送られた移民・衛藤(当時23)はともに移住した妻や弟を失い、ブラジル各地を放浪、怨恨を抱きながら最低の生活を送る。

 そして(多分)2003年、同じ入植地の仲間の息子で今ではサンパウロでともに住む(石黒)ケイ、コロンビア人として日本に住む松尾、そして砂金掘りでいっしょだった山本の三人の男たちが東京で無能・無責任な日本政府に対して周到な準備に基づく復讐計画を実行する。

 この復讐計画を松尾、山本の実行犯の視点から、そしてテレビ局の報道局ディレクターで近づいてきたケイとの情事に溺れながらスクープ合戦に巻き込まれていく井上貴子(31)の視点から描いていく。

 読み進むにつれてこの復讐計画がしだいに明らかになっていくのだがこれが細部にいたるまで綿密に描かれていて、フォーサイスの小説を彷彿とさせる。現代日本で同様の計画を行おうとすればたしかにこういう手配と注意が必要だということがよくわかる。この実行グループに感情移入しての手に汗握る展開である。

 しかし、復讐計画なのに陰惨ではない。むしろ復讐というより世間に広くこの問題を知らせるということが目的であるようになってきて、後半になると捜査陣側からの視点も入ってくる。

 これじゃあみんな一生懸命やってるんだからさあ、そんなに外務省とか責めたってしょうがないでしょみたいになってきてちょっと物足りないかもしれないと思う向きもあるだろうが(事実私もそう思った)、最後まで読むとこれはこれでひとつの終わり方だ。ラテン系でいいじゃないかと納得、感動してしまうのである。

 (このような)政府に期待するほうが間違っているのであって、この小説の主人公たちのように強く楽天的に生きていくしかないと思ってしまうのである。

 警察の捜査方法、日本各地に張り巡らされているNシステム、テレビ局の視聴率をめぐる争い、コロンビアの麻薬カルテルなどほかに読みどころも多いが、うまく消化されていてみんな収まるべきところに収まっている。見事である。

 なお本編で作者の垣根涼介(かきね・りょうすけ、1966-)は第6回大藪春彦賞、第25回吉川英治文学新人賞、第57回日本推理作家協会賞という「史上初の三冠受賞!!」という栄誉に輝いた(本書の帯より)。


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