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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2005050002 三島由紀夫 宴のあと 1960 日本 新潮文庫

評者:発起人    評価:9   読了日:2005/05/04   公開日:2005/05/05

天才作家が描いた政治の世界

 

 三島由紀夫(みしま・ゆきお、1925-1970)が1960年に発表したこの小説は作品の登場人物のモデル、元外務大臣の有田八郎からプライバシー侵害だとして訴えられたことで有名だが、今読んでも十分感動的で面白い作品である。(裁判は一審判決後、1966年に和解)

 小石川にある料理屋、雪後庵(せつごあん)の女主人、福沢かづが主人公である。

 雪後庵は政財界の客が多く、政治的には当然のように保守党の牙城である。たとえば保守党の黒幕政治家、永山元亀(ながやま・げんき)はなじみの客であり、かづにとって「色恋ぬきの男の友人」のひとりであった。

 かづは五十を越えて、自分を完全に制御できる境地に達したと考えていたのだが、野口雄賢(のぐち・ゆうけん)に出会ってそうした境地が揺らぐのである。戦前には外相まで務めた野口は妻に先立たれ、今では政治的立場を変え革新党の顧問であり乏しい年金暮らしだったが、その理想主義と知性に基づく野心は冷え切っていない。

 かづは野口に惹かれてゆく。

 かづは野口のどこに惹かれたのか?かづには理解できないながらもその一種の倫理主義(これは政治の対極にあるものだ)を押し通そうとする野口の無邪気さか?家柄か?かづは野口家の墓に入ることを夢見るのである。

 奈良・東大寺二月堂のお水取りへの旅でかづは野口と結ばれ、二人は結婚する。普段は雪後庵の仕事を続け、週末だけ椎名町にある野口の家に帰る生活を続けていたが、野口が革新党の都知事候補として擁立されると、かづは野口以上に選挙運動に熱中する。(野口は実はほとんど政治というものを理解していない。)

 この選挙戦の描写が圧巻である。政治というものの本質を小説の言葉で描ききっている。革新党の選挙のプロ、山崎という人物のキャラクター造詣(この人にモデルがいたのかどうかはわからないが)もすごいというほかない。

 選挙(=宴)は終わり、かづは雪後庵も失ってしまうのだが・・・。

 天才作家であるとともにその過激な右翼的政治思想と行動でも有名な三島由紀夫が正面から現実政治を描いたのである。

 しかしここには政治と文学(詩)とのありふれた二項対立は存在しない。ましてや単純な政治的プロパガンダでもない。文学は政治をも表現するべきものとしてあり、この作品はおそらくその日本での数少ない成功例だと思われる。

 私はそんなにこの作家の本を読んでいるわけではないが、またはっきり言ってその思想・行動には嫌悪を覚えているほうである(1970年の「自決」のときに新聞の一面に載った介錯された首の写真ははっきり覚えている)が、これほどの感覚・技術・力を兼ね備えた魅力ある言葉の使い手は現在・過去を含めほかに思い出すことが困難である。

 三島由紀夫は文学と対極の存在であると思いがちな政治でさえ、ほぼリアルタイムで描ききってしまったのである。


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