感想文番号

著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2005040011 古川日出男 アラビアの夜の種族 2001 日本 角川書店

評者:発起人    評価:7   読了日:2005/04/29   公開日:2005/04/30

アラビアの夜に語られる驚くべき物語−大仕掛けな力作

 

 本書は本についての本である。物語についての物語である。著者と読者、語り手と聴き手についての本である。オリジナルと翻訳・解釈についての本でもある。

 これはむずむずおもしろそうと思うのは私ひとりだけではあるまい。

 物語は、聖遷(ヒジュラ)暦1213年1月(西暦1798年6-7月)のカイロで幕を開ける。オスマン帝国の属領である当時のエジプトは実質的には奴隷階級(ムマルーク)出身の知事(ベイ)たちが統治していた。そこへ異教徒の将軍、28歳のナポレオンの率いるフランス軍艦隊が迫る。

 この侵攻に対し、もちろん諜報的・軍事的な対抗手段がとられるが、こうした手段ではもはやこの当時のエジプトはフランスの敵ではなかった。

 知事(ベイ)で実力者のひとり、イスマーイール・ベイは同時に無類の本好きでカイロ唯一の自分だけのための私設図書館を持っているがその腹心の部下で奴隷出身の切れ者アイユーブは驚くべき秘策を提案する。

 伝説の『災厄(わざわい)の書』を発見し、それをフランス語に翻訳してボナパルト(ナポレオン)に送れば、このフランク族の将軍は壊滅するはず・・・。

 アイユーブは謎の女語り部、「夜のズームルッド(エメラルド)」を見い出し、この『災厄(わざわい)の書』を創り出そうとする。ズームルッドが語り出したのはアーダム、ファラー、サフィアーンという主人公たちが登場する驚くべき物語であった。

 毎夜、物語を記録する書家とその助手、そしてアイユーブはこの驚くべき物語に魅せられていくのであるが、いっぽうでフランス軍はアレクサンドリアからカイロに迫る・・・。『災厄の書』は完成するのか?いやそれよりもこの驚くべき物語の結末は?物語と現実、現実と物語が交錯し、幾重にも包まれた言葉が魅惑的な多重世界を創り出す。

 本作品で著者の古川日出男(ふるかわ・ひでお、1966-)は前人未到の日本推理作家協会賞・日本SF大賞のダブル受賞という快挙を成し遂げた。

 私も、この大作、読み始めて10日ほどかかったが、この作品の根本的な仕掛けをなしている設定、つまり語り口自体が聞き手(読者)に夜も日も寝食も忘れて読みふけさせる物語であるという設定の水準には残念ながら達していないと思うのである。なぜならこの約10日間の間私は寝食を忘れることは一度もなかったのである。

 しかしそんな物語というものはめったにあるものではない。あったらそんな読者は死んでしまうので記録にも残らないはずなのである。

 むしろこのような大仕掛けに果敢に挑んでかなりの水準で成功させた著者の構想力と膂力を讃えるべきである。

 ルビ・俗語・方言・現代口語・漢語などを奔放に混ぜ合わせている文体(語り口)はコミック風であり、饒舌な戦闘シーンの描写はテレビゲームだ。(イスラム風)ファイナルファンタジーの小説版だ。表題や装丁の絵から想像されるようなエロチックな場面は期待はずれ。


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