感想文番号

著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2005040009 中島義道 孤独について -生きるのが困難な人々へ 1998 日本 文春新書

評者:発起人    評価:9   読了日:2005/04/18   公開日:2005/04/18

「血の言葉」で書かれた中島義道の半生記

 

 人生に悩む多くの人々が著者の中島義道(なかじま・よしみち、1946-)を頼って手紙を書いたり回答を求めたりしてくるらしい。ところが著者は「他人に執着することが嫌いである。他人から執着されることも大嫌いである。」(p6)

 たしかにこうした読者は「ただひたすら人生に悩んでいる。だが、私は人生に悩みながら、それを商品にして切り売りしている。」(p9)「本書はこれまで全国から数々のメッセージを送ってくれた「孤独な」読者への返事である。」(p10)

 こうして著者の半生記が綴られる。別に孤独に悩んでいなくても、「死の恐怖」という大問題を意識せず日常生活を送っていても、並みの小説より格段に面白い。

 どこまで本当か、あるいは書かれていないことによる嘘が混じっているのではないかという疑問は湧いてくるが、「学歴と立身出世を尊ぶ」家に生まれ、孤独で屈辱的な毎日を過ごし、何度か根底的な失敗のために引きこもり、自殺未遂まで行った著者の苦闘が「血の言葉」で語られる。

 小学生時代の「小便を我慢すること」に始まり、東大での12年間(!)の学生・院生生活、ウィーン大学への私費留学・博士号取得、帰国してからの東大助手時代の苦悩(ここでのY教授による常識はずれの嫌がらせとそれに応ずる著者のバトルの段は圧巻である)、そしてやっと新設大学の助教授になり、本が売れ出してからの「人生から半分おりた」生活。

 とにかく著者は悩みまくるのである。しかも、それは高尚な悩みではない。「私の悩みは矮小で、些細で、暗く、陰気なものである。」(p78)しかし、「・・・陰湿で矮小な悩みこそ、リアルな悩みなのだと思う。」(p79)

 うーん、わかるなあ。こういう悩みをわかってしまう自分が怖い。

 でもこの本によると最近の(とはいっても本書が出版された1998年を基準にしてだが)著者は異様ではあるがけっこう落ち着いてるような気配が漂っていて、このあたりが少し物足りない。もっと凄絶に悩み続けてほしいのである。

 それになんだかんだ言っても結局勉強のよくできたお坊っちゃんが考えすぎてちょっとおかしくなりかけたが生活は家族などにみてもらって今ではそうした尋常ではない体験を売りにした学者になってるってことかという気がしないでもない。

 しかし著者のいう「孤独の絶対必要条件」(他人が嫌いで自分が嫌い、つまり人間が嫌いという不幸)を持つ人たちには、「孤独」を引き受け、ついには楽しむという境地に達するためのヒントを与えてくれる本である。 

 だがいっぽうで、いつまでもこの人の習慣性のある文体で頭をかき回されるのは困るので、今月の中島義道小特集は文春新書の初回配本として出版された本書で打ち止めにしたい。


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