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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2005010009 笹山久三 四万十川−あつよしの夏 1988 日本 河出文庫

評者:発起人    評価:8   読了日:2005/01/22   公開日:2005/01/22

豊かな自然と家族に育まれて成長する少年の物語

 

 高知県を流れ、土佐湾にそそぐ四万十川。その流域の村でくらす、篤義(あつよし)は山本家の次男で小学三年生。目立たず、おとなしい。

 秀夫・スミの夫婦は日用品や食品などを商う「山本商店」をやっているが、豊かな暮らしではない。四万十川での一家総出での鰻、鮎、蟹などの漁、「仕入れ」で往復する町との「交易」でなんとか生計を立てている。

 長女の朝子(中二)、長男の和夫(小六)、次女の鈴子(小一)、そして三男で就学前の光男を加えた七人と雌猫の「ギィ」が山本家の家族である。

 家族から見ても何を考えているかよくわからない、「自分の世界」に入り込む篤義が、「ギィ」が生んだ子猫の「間引き」をめぐって父母へはじめて反抗する第一話「くろい子猫」、いじめの対象になっている千代子を救うために同級生とけんかをする第二話「うばが谷の大蛇」がこの文字通り大河小説の第一部(「あつよしの夏」)である。

 こうして篤義は一回り大きく成長するのだが、彼の心の動き、家族や小学校の新米の吉田先生などによる暖かい思いやり、そして四万十川に代表される自然の恵みとそれとの交流の描写がすばらしい。

 四万十川と家族そして故郷の人々が世の中の弱肉強食の風潮、家族や共同体を破壊し差別主義を広げていく流れに抵抗して生きていく力を与えるのである。すくなくとも故郷の高知県を出て、横浜の郵便局で外勤をしながら作家活動を続けているという著者の笹山久三(ささやま・きゅうぞう、1950-)にとっては多分そうなのである。

 さて篤義はどうなっていくのか。


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