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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2004120007 藤沢周平 蝉しぐれ 1988 日本 文春文庫

評者:発起人    評価:7   読了日:2004/12/18   公開日:2004/12/18

「いぶし銀」の文章をはっきり見たい?−藤沢周平、映像化ブームの秘密

 

 藤沢周平(ふじさわ・しゅうへい、1927-1997)の人気が高まっているようだ。この作品『蝉しぐれ』(1988)も昨年NHKでドラマ化され放映されたが、さらに映画化も決定しているという。他にも『たそがれ清兵衛』とか『隠し剣 鬼の爪』など映像化された作品も数多い。どうしてだろうか?

 この作品を読みながら考えたが、ひとつはやはり現代日本では失われてしまったように思える倫理観を登場人物たちが保持し、苦境に陥ってもやけにならずにひたすら努力・精進を続けるということへ読者が共感を覚えるということだろう。

 舞台は著者が創造した、東北地方の海坂(うなさか)藩。下級武士の牧文四郎はまだ元服前に藩の権力闘争のあおりをうけて、父・助佐衛門を失う。助佐衛門は切腹、牧家は減禄(つまり大幅年収ダウン)かつ転居(同じ階級・階層は同じ場所に住むところを与えられていたんですね)を命じられる。

 大きな挫折体験である。だがこのような経験をしても文四郎は腐らないのである。剣の道に励み、仲の良い小和田逸平や島崎世之介などとの友情を育む。

 いろいろな危機もあるが、努力を続ける文四郎に悲惨な結末が待っている筈はない。それなりに報われるのだ。とは言ってもそれは文四郎にとって苦い感情、実現できなかった想いなどを抱えたままでの「勝利」である。

 江戸時代は身分制社会であるから、秩序を崩す可能性のあるような恋愛は厳しい抑圧・規制を受ける。また家の格、あるいは武士と農民などの格差は絶対的である。そのような窮屈な世の中でも、いろいろな悲しみや怒りを胸に秘めつつも、文四郎は成長を続けるのである。

 それではこの小説は我慢と封建道徳(=体制)への順応を説いているのか?いや、現代日本の読者も同質のモヤモヤ感を抱いて日常生活を送っているのであるから、それだけでは読者は欲求不満に陥ってしまう。だからきちんとクライマックスには読者のもやもやを発散させる場面もある。

 しかし全体に抑制が効いた文体で、そこがまた小説らしい小説として読み継がれるのだろう。映像化される第二の理由はこのていねいに刻み込まれた文章をはっきりと眼に見えるものにしたい(見たい)という需要があるからだろうと思う。自然描写や剣道の試合などのシーンはこの名手の腕を持ってしても伝わりにくいものである。  


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