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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2004100009 梁石日(ヤン・ソギル) 血と骨 1998 日本 幻冬舎文庫

評者:発起人    評価:8   読了日:2004/10/30   公開日:2004/10/31

「血と骨」が伝える人間と民族の業−圧倒的迫力で読者を離さない傑作

 

 とてつも無い暴力と情欲をその巨体から発散させる金俊平という男の人生を描いたこの長編小説、圧倒的迫力を持った作品である。

 金俊平は作者、梁石日(ヤン・ソギル、1936-)の父親をモデルにしているというが、もちろん小説の登場人物と現実の人物を比較しても意味が無い。読者は小説の登場人物として、この怪物的キャラクターと接するのである。

 1930年頃、大阪の小さな蒲鉾工場、「東邦産業」に住込み職人として勤めていた金俊平は、他の職人たちからも恐れられていた。俊平は、1900年頃に済州島に生まれ、15歳ごろ故郷を出奔、朝鮮各地を放浪したあと、日本に住むようになったのである。

 絶え間ない暴力沙汰と奇行の繰り返し。飛田遊郭の八重という女にひと目惚れし、借金をしてまで「身受け」をするが、八重にはまんまと逃げられる。八重に裏切られたことだけが原因では無いが、その後の俊平の行動の凶暴性はどんどんエスカレートしていく 。

 小さな朝鮮人向け飲み屋をやっている英姫という子連れの女を、半ば暴力的に犯し、主人面をして居座る。金は英姫の商売から強制的に出させ、自分との間にできた子供も全然面倒は見ない。酒を飲み、暴力をふるい、店や家を壊す。放浪し、別の女を作る・・・。それなのに、英姫はもちろん、日本にいる甥や唯一の友人と言える高信義も俊平には手を出せない。

 荒れ狂う嵐に手を出せないのと同じく、やり過ごす、一時避難するしか手は無いのである。 日本の中で孤立した在日朝鮮人社会の中では警察さえもほとんど手が出せない。極道たちも同じである。

 俊平に信じられるものは何も無かった。家族や死後の生とかいうものは彼には考えられず、自分の強靭な肉体と金、快楽だけが、やがては死んで、忘れ去られてゆく人間にとって執着すべきものであった。

 作者をモデルにしていると思われる長男の成漢は、父・俊平の恐怖支配のもとで幼少時代をすごす。俊平の存在は絶対であった。やがて反発し、対決するが、決定的な対決のあとは、家を出る。

 成漢が俊平の死を知ったのは、東京でタクシー運転手をしているときであった。「血と骨」を分けた俊平の子供である成漢の視点で、金俊平の生涯を描いたこの小説、欠点と思われるところはいくつか指摘しようと思えば指摘できる。 たとえば、語り手の視点が、俊平、英姫、高信義などの間で定まらないこととか。

 しかし、これだけの存在感を持った人物を造詣し、永遠に「血と骨」を通じて伝えられる民族のあるいは人間の「業」を描ききったこの作品にそのような小賢しい文芸評論的な見方はあまり意味を持たないだろう。

 なお、この作品は山本周五郎賞を受賞した。崔洋一監督、ビートたけし主演で映画化され、、2004年11月から公開される。


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