感想文番号

著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2004090007 貫成人 哲学マップ 2004 日本 ちくま新書

評者:発起人    評価:9   読了日:2004/09/15   公開日:2004/09/15

哲学の入門教科書としてはこれ以上望めないわかりやすさ−でも栄養満点

 

 哲学というものは、学ぶものではなく、「する」ものなのである、と永井均(1951-)は『<子ども>のための哲学』(1996)で強調していた。「趣旨を要約すること」などそもそも不可能なのであるとも書かれていた。そのあたり諸学の王と自称?していた時代の残りかすのようなものが感じられて敬遠してしまうのである。

 それなのに、この貫成人(ぬき・しげと、1956-)の『哲学マップ』(2004)、帯には、「入門に!整理に!復習に! 古今東西の思想を一冊に収めたお得本。」というコピーがついている。英語の参考書でもここまで書かないよ、普通。

 もちろん、著者も哲学を要約することの難しさはよく理解している。それなのに、なんと、要約どころか、地図にしてしまおうというのである。

「いわゆる哲学の内容を、レベルを落とすことなく、徹頭徹尾、わかりやすいように述べ、その全体像を把握しやすくした試みが本書である。」(p239)

 私は体系的に哲学を学んだ経験が無い。それなのに、懲りずに哲学の入門書を拾い読みしているのである。何故なのだろう?この本を読んで思い当たることをひとつ発見した。

 著者が西洋哲学の基本的発想・ルールの第一項目としてあげている「全体志向」すなわち個別例では無く、全体を貫くルールを求めようという志向に私自身が同調するところがあるからではないか。(そういう考え方をあたかも自分の内発的なもののように理解しているのもフーコーなどに言わせれば違うと言うことになるのだろうが・・・。)

 この本を読むと、そういう志向自体が現代哲学では否定されている。あるいは現代哲学は何故そのような「全体志向」が基本的発想になったのかと設問し答えていこうとしている。西洋哲学自体が諸学の王どころか、特殊な歴史と条件のもとで生まれた特殊な考え方・方法にすぎないという見方も有力のようである。

 人間行動しているときは(うまくいっていてもいなくても)、世界とは何かとか、自分とは何かとか、人生に意味があるかとかあまり考えないものである。私の「全体志向」も暇人の時間つぶしに過ぎないとも言えるし、もっと個別例の中に入り込むことが必要なのであるということなのかも知れない。

 それはさておき、主に満員の通勤電車の中で読んだのにもかかわらず、これだけ頭に入りやすい本もめずらしいと思う。(しかもハリ・ポタと違って軽い、安い=777円!)

 哲学者たちの思考とそれらを貫く(あるいは否定された)基本線、対立・影響する交差線を、著者の過剰な思い入れなしに解説してくれる本はなかなか見当たらないが、この本はそういう要求に応えている。でも、宇宙食のように(食べたことないけど)軽くても栄養は満点、必要なエッセンスはきちんと詰まっているから消化不良には注意しよう。(東洋思想、日本の哲学の解説にブックガイドまでついている。)

 とりあえず一冊だけ哲学の本を読んでみたいという人には、躊躇なくこの本をお奨めする。


作家別一覧:  1 2 3 4 5 6 7 8

刊行年別一覧: 1 2 3 4 5 6 7 8

Home