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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2004080009 山口雅也 キッド・ピストルズの妄想 1993 日本 創元推理文庫

評者:発起人    評価:8   読了日:2004/08/27   公開日:2004/08/27

現代推理小説の先駆か?推理小説マニアたちの聖典か?

 

 現実の世界とは少々異なるパラレル・ワールドの英国で、パンク野郎のキッド・ピストルズと同じくパンク娘のピンク・ベラドンナが活躍するシリーズの一冊。

 このパラレル・ワールドは、今私たちが生きている世界に似ているが、鏡に映った像に歪みや曇りがあるように、異なった部分もある。犯罪の発生率が高く、しかし警察の腐敗・無能ぶりは激しく、ついにパラレル英国では、探偵士(マスター・オブ・ディテクティブ)制度なるものが誕生、公認の探偵士が初動捜査・指揮権を持ち、警察は探偵士協会の下請けのような存在になってしまった。

 このパンク・コンビも身分はスコットランド・ヤードに属する警官なのであり、探偵士の指揮下で事件捜査に携わっている。

 『キッド・ピストルズの妄想』には、三つの事件が収められているが、いずれも冒頭に『マザー・グース』が引用され、事件もこの英国の童謡(詩?)の一節をなぞるように展開される。

「神なき塔」では、アインシュタインに傾倒し、「重力とは時間と空間の曲がりである」(p47)、したがって重力という神から逃れる、「反重力」は実現できるというハンフリー・ダンプリー博士が、実験で使っていた塔の屋上で死体となって発見される。

「ノアの最後の航海」では、旧約聖書の「ノアの洪水」の再来を信じているノア・クレイポールがその財力で建造させた箱舟(まだ陸上にある)の自室で、いとこであり学者であるロナルド・クレイポール博士とともに死を迎える。聖書の原理主義を信奉するように見えるノアに対してロナルドはいわゆる「利己的な遺伝子」という学説の信奉者である。

「永劫の庭」は、庭園が主人公であると言っていいかもしれない。先祖から受け継いだ自宅の有名な庭園を手放さざるをえなくなっているラドフォード伯爵リチャード・シーモアが主催する「宝探しゲーム」に参加したパンク2人組と、探偵士のメルクール・ボワロオは今度は首無し死体を発見する。(ちなみに前2篇の探偵士はブル博士である。)

 全体のタイトルに妄想という言葉が使われているように、各篇の登場人物たちは独自の世界を構築している。それが妄想なのは他者と共有できる部分が少ないからである。しかし妄想には妄想の理論があり、それをなぞっていけば事件は解決するのである。

 現実とは異なる世界設定で、現実には存在しにくい「妄想」の持ち主たちが繰り広げる事件と事件解決方法は、しかしあくまでも純論理的である。そこには奇跡や偶然が入り込む余地は無い。

 作者の山口雅也(やまぐち・まさや、1954-)は、こうした基本的な仕掛に忠実に小説世界(これもひとつの「妄想」)を創り上げた。しかも名作推理小説の登場人物・設定のパロディに、憎めないパンク二人組を配してミステリ・マニア(これこそ最大の「妄想」に取りつかれた人たちである)の心を揺さぶるのである。

 この文庫本のカバーを描いている京極夏彦、あるいは清涼院流水などが山口雅也無くして存在しえたか?存在しえたとしても、微妙に異なる、微妙に魅力の少ない、パラレル日本ミステリ界に生きる作家としてだったかもしれない。 


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