感想文番号

著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2004080006 P. D. ジェイムズ 皮膚の下の頭蓋骨 1982 イギリス ハヤカワ・ミステリ文庫

評者:発起人    評価:9   読了日:2004/08/18   公開日:2004/08/18

英国ミステリのストックの大きさを痛感させる文学的傑作

 

 『女には向かない職業』(1972)でデビューしたうら若き女私立探偵コーデリアス・グレイが活躍するシリーズ(とは言ってもこの第2作が今までのところこのシリーズの最後の作品)。

 プライド探偵事務所を引き継いだコーデリアス・グレイは助手のべヴィスとミス・モーズリイといっしょに迷子になった猫を探したりして何とか糊口をしのいでいる。

 そんな彼女のもとに現れたひさびさにまともそうな依頼人、ジョージ・ラルストン卿。この元軍人は、妻で有名な舞台女優、クラリッサ・ライルのもとに脅迫状が届いているという。シェイクスピアなどの文学作品から引用された死に関する台詞がタイプされた脅迫状。

 奇怪な伝説と歴史に彩られた東海岸のコーシイ島で行われる、伝統ある公演で主演女優をつとめるクラリッサの護衛がジョージ卿の依頼であった。

 現在の島と城の持ち主であるアンブローズ・ゴリンジはヴィクトリア王朝時代の骨董品などを蒐集し、自分の趣味の世界を作り上げている。演劇評論家のアイヴォ・ウィッティンガムは死病に犯されているらしい。

 アンブローズの執事であるムンターとその妻、雑用係のオールドフィールド、クラリッサの前夫の息子で音楽学校に通わせてもらっているサイモン・レッシング、クラリッサの付き人のローズ・トルガース(トリイ)、従姉妹だが経済的には苦しいローマ・ライル・・・。

 そんなひと癖もふた癖もありそうな連中たちの中に、われらがコーデリアは乗り込んでいく。誰もがクラリッサを脅迫したり、死を願ってもおかしくは無いように見える。

 P. D. ジェイムズ(1920-)の筆致は、丹念にというか稠密にというか舞台装置としてのコーシイ島の歴史を、そしてコーデリアを含めて10人の登場人物の背景を明らかにしていく。

 豊かな文学と歴史とミステリのストックが縦横に駆使される。登場人物たちの会話のひとつひとつがかれらの緊張・対立・愛憎を明るみに出し、長い間人類が考えてきた死、悪、罪などといったテーマをあらためて読者に思い出させる。食事、お茶、服装、自然や天候などの描写も物語が最初の沸騰点に達するまで加熱を続けるのである。

 そして、犯罪が起きる。殺人事件である。なんとここまで行くのに作者は文庫本で590ページぐらいのうち、260ページを使っている!

 警察が島にやってくる。グローガン主任警部とバクリイ部長刑事がこの10人マイナス被害者1人で9名の容疑者を尋問する。

 ここで読者は、警察といっしょに、またコーデリアといっしょに推理を巡らせるのであるが、うー、なんというかこれはいわゆる「孤島の殺人」型の純粋な謎解きミステリ(パズラー)のように見えて、そんな単純な話では無かったのである。

 最初からP. D. ジェイムズの意図はそんな何万回と書かれてきたミステリをなぞることには無かったのである。

 文学色強いミステリというか、ミステリの皮を被った文学というか、両者のパロディというか?あー、このあたりが感想文の限界か?未読の方は是非読んでみてください。

 それにしても痛感するのは英国という国のストック(土壌というか)の豊かさである。このストック無しには、いかに作者の才能と努力があろうともこのような作品は生み出せなかっただろうと思う。


作家別一覧:  1 2 3 4 5 6 7 8

刊行年別一覧: 1 2 3 4 5 6 7 8

Home