感想文番号

著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2004070012 奥田英朗 空中ブランコ 2004 日本 文藝春秋

評者:発起人    評価:9   読了日:2004/07/21   公開日:2004/07/22

爆笑精神科医伊良部の腕ますます冴える!-不眠症患者の病状悪化は必至だが・・・。

 

 『イン・ザ・プール』(2002)からそのまま本作『空中ブランコ』(2004)に突入だ!「本の虫クラブ」初の同一作家連続感想文公開 、おまけに(ということは無いが)この作品は直木賞を受賞したばかりである!

 東京では連日の猛暑で、20日には観測史上最高の39.5℃、21日の朝には同じく観測史上最高の最低気温30.1℃を記録、さらに21日も38.1℃と、読書にとっては最悪の環境下、爆笑精神科医・伊良部が登場するこのシリーズ、読んでいる間は暑さも時間も(忘れちゃいけないが)仕事も忘れさせてくれるのである。

 表題作「空中ブランコ」では、サーカスのリーダー的団員が演技の花形、空中ブランコで何度も失敗し、自分を受け止める相手が自分をわざと失敗させようとして陰謀を企んでいると思い込む。伊良部は患者の悩みそっちのけで、自分が空中ブランコの練習を続けるが・・・。

 「ハリネズミ」では先端恐怖症になった暴力団の若手幹部が患者。とがった物はドスどころか、フォークや爪楊枝にいたるまで怖いのである。これでは仕事にならない。

 「義父のヅラ」で伊良部を訪ねてきた患者は、大学の同級生で今では大学病院で同じ神経科を担当している医師。彼は自分の妻の父である学部長のカツラを引っ剥がしたいという衝動を抑えることができないのである。

 「ホットコーナー」では、中堅のプロ野球三塁手が突然、取った打球を一塁へ送球できなくなってしまう。投げる球が全部とんでもない暴投になってしまうのだ。

 「女流作家」で登場する患者は、自分の書こうとする小説が過去に書いた小説の設定やプロットに酷似しているのではないかという強迫観念から、何度も何度も過去の作品をチェックしないではいられなくなる。

 5人の患者みんなそれぞれタイヘンな事態である。

 伊良部はいつものように注射を看護婦のマユミに命じた後は、それぞれの職業の患者たちの仕事を患者そっちのけで自分でやってみて楽しんでしまう。患者たちは伊良部に呆れているうちに、どうしてこういう状態になってしまったかの原因に思い至って、すっぱり治ってしまうのである。

 伊良部は名医か?5歳児並の精神年齢で患者たちが忘れていたものを思い出させてくれるのか?気取りや体面を気にせず安心して話ができるのがいいのか?

「・・・もしかすると人間かどうかも怪しい。総合病院の地下室に棲みついた子供の妖怪。迷い込んだ患者を相手に遊んでいる−。」(p202、「ホット・コーナー」)と患者のひとりはいぶかるのである。

 伊良部が治せないのは、今の読者の不眠症と第3作を待ち望む読者の伊良部依存症だけなのか?


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