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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2004070011 奥田英朗 イン・ザ・プール 2002 日本 文藝春秋

評者:発起人    評価:8   読了日:2004/07/20   公開日:2004/07/21

爆笑ヒーロー、精神科医伊良部の大活躍

 

 だいたい精神科医とかいうのは頭が良くて、なんでもかんでも知っていて(哲学なんかも好きそう)、悪徳医もいるだろうけど、少なくとも見た目は人格高潔、だけど適度に人間的のように見えるというイメージがあるよね。

 だが悲しいかな患者を早期に治すことだけは苦手なんだよね。いやあくまでもイメージだけど。

 そういうイメージを打ち砕いたのが奥田英朗(おくだ・ひでお、1959-)のこのシリーズ。伊良部総合病院の跡取り息子、医学博士・伊良部一郎のもとを訪れる患者たちは全く異質の医者に出くわすのである。

 体型はトドのように太っていて、眼鏡をかけ「いらっしゃーい」と地下一階の神経科で患者を待ち構えているのである。どうやら注射フェチらしく、どんな患者にも必ず、この神経科にいる露出狂らしい、美人だが不愛想な看護婦のマユミに命じて注射を打たせて興奮しているようだ。

 話をしてもいうことに遠慮や葛藤が無く、欲望のおもむくまままるで5歳の子供と話しているようである。それなのに、何故か伊良部のもとに患者は続けてかようのである。

 どうしてこの男が医者なのか?といぶかっている間に患者は伊良部のペースに巻き込まれる。

 表題作では、原因不明の「呼吸困難」「下痢」「内臓の学究崩壊」「腎臓のあたりの違和感」などに悩まされていた編集者の男が、伊良部に身体を動かすことが大事だと言われてはじめた水泳にやみつきになる。水泳をしないと今度は落ち着かない。依存症である。伊良部は止めるどころか、率先して男といっしょになって楽しんで泳ぎ、休憩時間を気にせず泳げる深夜の区立プールへの侵入に誘う。

 他の4篇でも、ペニスが勃起したまま治まらない男(「勃ちっぱなし」)、男がいつも自分を付けねらっていると悩む女優志望の女(「コンパニオン」)、ケータイが無いと全く落ち着かなくなる男子高校生(「フレンズ」)、タバコの火の後始末が気になって外出できなくなってしまうルポライター(「いてもたっても」)と伊良部の患者たちは、回りの人にとっては何でもないこと、あるいは滑稽にさえ思えることが、本人にとっては非常に苦しく社会生活に支障をきたしているのである。

 伊良部は「精神分析」や「カウンセリング」はしない。いっしょにとことんまで付き合って、いや自分も楽しんで、結果的に原因を突き止め(伊良部が認識しているかどうかは怪しいが)患者を治してしまうのである。

 名医なのか?それともただ金と院長の息子という力が余裕を生み出して無邪気に患者と付き合い、遊んでいるのがいい結果を生むのか??だいたいこの作者はちゃんと調べて書いているのか?こころの病をこんな娯楽作品で扱っていいのか??・・・などといっている場合では無い。

 次作『空中ブランコ』(2004、直木賞受賞)に突入だ! 


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