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感想文番号 |
著者 | 書名 | 刊行年 | 刊行国 | 出版社 |
| 2004070002 | 安部公房 | 砂の女 | 1962 | 日本 | 新潮文庫 |
評者:発起人 評価:10 読了日:2004/07/05 公開日:2004/07/05
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砂の中に閉じ込められた男の闘い−新地平を開いた傑作
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安部公房の名を一躍世界的なものにしたというこの作品、単純な話だと言ってしまえばそれまでだが、最後までぐいぐい引っ張っていく力は全然古さを感じさせないどころか、一級の文学作品だけが表現できる満足(と不満足=早く終りすぎるから?)を提供している。 「男」(名前もあるがあまり意味は無い)は休暇を取って昆虫採集に出かけたまま職場にも家にも戻らず行方不明になってしまう。 彼はある地方の砂に囲まれた海沿いの部落を訪ねたのだ。新種の昆虫、特にニワハンミョウの新種を発見することに情熱を傾ける彼は、この昆虫の存在条件である「砂」を求めて、この土地を選んだのである。 1日目、たいした収穫も無く、村人の紹介で案内されたのは、砂の崖に周りを囲まれた文字通り蟻地獄の穴のような底に建つあばら家だった。中には30ぐらいの女がひとり住んでいる。 縄梯子が上げられたときが、男にとっての地獄の始まりだった。男はこの本人の話によると寡婦とふたりでこの砂の穴の底に閉じ込められたのだ。 いったい何のために?毎分毎秒、絶え間なく部落を埋もれさせようとする砂と闘う労働力としてだ。彼にはこの女が与えられ、反抗しない限りはタバコや焼酎、そして何よりも貴重品の食料と水の配給がある。しかし、少しでも反抗したり、逃亡を企てたりすると、部落の者たちによる容赦の無い罰が与えられる。理不尽だ、法治国家に許されない行為だと喚いても説得しようとしてもすべての行為は無駄である。彼は砂の中に監禁されてしまうのである。 安部公房は、この理不尽に反抗し、逃亡を企てる男の意識と行動を比喩を多用した乾いた文体で描く。お得意の「理系」用語の多用も効果的である。 読者は、考えるのである。いったいこの「砂」とは何の象徴なのか?日本の閉鎖的な共同体の圧力か?日本社会の象徴か?資本主義社会の隠喩か?いやもっと一般的にすべてを埋め、無にしてしまう時間のことか?男の職業である教師に代表される「知」を無力にする生活・生存の力の優位への屈服か? 答えはそのすべてでありうるし、そのどれでも無いとも言えるのだろう。 つまり、そんなに単純に割り切れないからこそ、こういう手法の小説を書くしかなかったのだ。 そしてその試みは日本語による、翻訳可能な新しい文学の地平を切り開くことに成功していると言える。 何とも言えない、安部公房ならではの世界を、それは同時に人を不安にさせ欠乏を意識させる世界でもあるが、満喫できる傑作である。(非文学的表現を許してもらえば、安部公房は「かっこいい」のである。) はたして、「男」は脱出できるのか? |