感想文番号

著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2004040002 アーサー・コナン・ドイル 恐怖の谷 1915 イギリス 新潮文庫

評者:発起人    評価:5    読了日:2004/04/07    公開日:2004/04/07

二本立て映画のようなホームズもの最後の長編

 

 名探偵といえば、シャーロック・ホームズ、その引き立て役で記述者といえばワトソンと相場が決まっている。このホームズ−ワトソンに加えて、敵役の天才犯罪者モリアティ教授を配したこの鉄の三角形。この基本形を創造(?)した元祖、家元、始祖、コナン・ドイル(1859-1930)。

 世界中に今でもシャーロキアンと呼ばれるファンを抱えるだけにめったなことは言えないので、私のこの感想文も歯切れの悪いものになりがちなことはご容赦いただきたい。(しかし、私はロンドンに仕事で行ったときには寸暇を惜しんでアビイ・ロードとベーカー街221Bには詣でておりますので、失礼があればお許しください。)

 さて、ドイルはホームズものでは数十篇の短編と四長編を残している、らしいが、長編ではこの『恐怖の谷』(1915)が最後である、と思う。(発表年次という意味でですね)

 本格・変格・倒叙・サスペンス・冒険・警察・スパイ・心理・叙述・ハードボイルド・サイコホラー等々、ジャンル分けにこだわる人もたくさんいるのだが、その意味ではこの『恐怖の谷』、「本格」とは言いがたいのではないか、いや失礼、というかそのようにミステリーが進化する前の共通祖先というような偉大な作家の作品であるから、後のジャンルの原型となるような要素がいろいろ含まれているのである。

 全体は二部にわかれていて、第一部は普通のホームズもので記述者もワトソン。殺人事件は難なく解決するが、その事件の登場人物がワトソンに託した手記(というか小説だね、これは・・・)が第二部。こちらは場所も米国。登場人物も背景も異なり、おまけにこちらにはドイルも加盟していたという秘密結社フリーメイソンが重要な味付けとして登場する。( 吉村正和 『フリーメイソン』(1989)参照。)

 このふたつの話がうまくかみ合っていないというか、無理矢理くっつけてひとつの小説にしたという感じは、開拓者ドイルの苦労は認めつつも、やはり否めないのである。くっつける仕掛として使われているのが、直接は登場しないモリアティなのであるが、モリアティもこんなことの責任までとらされたんじゃ可哀想だよなあ・・・。


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