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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2004030008 レイモンド・チャンドラー 赤い風 チャンドラー短編全集 1 1938 アメリカ 創元推理文庫

評者:発起人    評価:6    読了日:2004/03/26    公開日:2004/03/27

手が先に出るのは頭が悪いからでは無いのである

 

 レイモンド・チャンドラー(1888-1959)の短編集。表題作「赤い風」(1938)のほか、「脅迫者は射たない」(1933)、「金魚」(1936)、「山には犯罪なし」(1941)の計4編が収められている。いずれも「ブラック・マスク」などの雑誌に発表され、のちに単行本に収められたものである。私は原則として(原著の)単行本刊行年で分類しているのであるが、この短編集については表題作の雑誌掲載年を「刊行年」とする。

 さて、そんなことはどうでもいいのだが、この4編、いずれも私立探偵(ライセンスを持っていたらしい)が1930年代ごろのロサンジェルスとその周辺で事件に遭遇したり解決を依頼されたりする話である。雑誌発表当時は主人公の名前もいろいろだったようだが、処女作らしい「脅迫者は射たない」(1933)のジョン・マロリー、「山には犯罪なし」のジョン・エヴァンズ以外の2作は(のちに訂正されて)フィリップ・マーロウが主人公になっている。まあ名前はどうあれ、性格や行動はフィリップ・マーロウそのものである。

 そして彼が生きて、活動する世界は、殺人・脅迫・誘拐・強盗などあらゆる犯罪がいとも簡単に行われる、暴力に満ちた場所である。登場人物たちは一瞬でも早く、敵を倒すことに集中する。本格推理小説のように、長々と種明かしをしたり、何人も殺されるまで待っていたりはしないのである。謎とき・行動が同時に行われる、あるいは行動が謎を解くのである。(しかし探偵は人を殺さない。)

 こうした「ハードボイルド」の世界のほうが現実に近いことがわかる。主人公である探偵は危険を潜り抜けて、事件を自らの肉体を危機に陥れながら、新たな現実=謎ときに向かって進んでいく。いや実は、世界のほうが否応なしに登場人物たちの前に容赦なく現れてくるのである。(もちろんマーロウのように事件に日常的に遭遇していては身体がいくつあっても足りないが・・・)

 この本の始めに収められたチャンドラーが書いた「序」(これは短編集『簡単な殺人法』(1950)のために書かれた)にはこうある:

「凡庸の批評家は、どんな業績にしろ、その発生時に認めることは決してない。後世、不動の価値を得たのちにはじめて解説の任にあたるだけの話なのである。」(p9)

 自信と実績に裏打ちされた言葉である。

 後の作品のような、ハードボイルド+叙情性の絶妙な融合はまだ見られないように感じられるが、原型はこの作品集にも見まごうことなく存在している。


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