感想文番号

著者 書名 刊行年 刊行国 出版社
2004030005 目取真俊 水滴 1997 日本 文春文庫

評者:発起人    評価:8    読了日:2004/03/16    公開日:2004/03/17

置き去りにされた沖縄戦の死者たちへの沖縄風鎮魂の書

 

 私は残念ながら沖縄には行ったことが無い。沖縄のイメージと言えば、亜熱帯性の気候、きれいな海、陽気で楽天的な人々、悲惨な沖縄戦、戦後の米軍統治と本土復帰後も残る基地問題などが入り混じったものだ。そして私は沖縄出身の作家が書いたものを今まで読んだことがなかった!ということはこうした私のイメージは全部新聞やテレビ、映画によって作られたということになるが・・・。

 沖縄出身の目取真俊(めどるま・しゅん、1960-)による本書は第117回芥川賞受賞作の表題作「水滴」のほか、「風音」、「オキナワン・ブック・レヴュー」の計3編が収められている。

 「水滴」の主人公、徳正(とくしょう)は妻のウシと二人暮しの農夫である。子供はいない。その徳正の右足がある日突然膨れ出し西瓜のような大きさになり、足先から水滴が落ちるという奇病に罹ってしまう。原因はわからない、水滴を分析してもただの水である。徳正に意識はあったが体を動かすことも言葉を発することもできなかった。

 そして、ある夜から寝たきりの徳正のもとに沖縄戦当時の兵隊たちが傷だらけの悲惨な姿で現れ、徳正の足先からの水滴を飲みにくるようになった・・・。徳正は気がついた、彼らが徳正が避難壕に置き去りにした兵隊たちであることを・・。毎晩訪れる兵隊たちは礼儀正しく、順番に徳正の足先からの水滴を飲んでは去っていく・・・。

 徳正は自分だけが助かった、逃げたという罪の意識を押し込めたまま戦後を酒と遊びに費やしてきたのだ。

 こう書くと、暗い、悔恨の感情に満ちた小説かと思われるかもしれないが、そうでは無い。妻のウシのドッシリとして動じない態度や、水滴を利用して金儲けを企む徳正と従兄弟同士の清裕(せいゆう)の行動、村人たちの反応がのんびりした感じの沖縄方言にくるまれていることもあってむしろユーモラスである。不思議な時間が流れている場所での不思議な物語、でも沖縄戦のことは、死者たちのことは毎日の「沖縄風」生活や他のいろいろな問題やテーマはあってもきちんと書くという強い意志が感じられる。

 目取真俊ももちろん戦後生まれであって沖縄戦は体験したわけでは無いが、沖縄と沖縄での死者たちにこだわることをひとつの根幹に据えて自分の小説世界を創造していることは確かである。他の二編も切り口は違うがこの根幹は共通している秀作である。


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