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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社

2003120007

重松清 ビタミンF 2000 日本 新潮文庫

評者:発起人    評価:7    読了日:2003/12/20    公開日:2003/12/20

「モノより思い出?」−重松清(1963-)の直木賞受賞作

 

 『ビタミンF』と名づけられたこの短編集、いずれも主人公は三十代後半から四十代前半の平凡なサラリーマンである。子供や家族が起こす「事件」(殺人事件とかは起こりませんよ!)に遭遇して、自分がいかに家族と疎遠であったかを認識し、反省し、過ぎ去った人生を自分の少年時代の親の姿にまで遡って思い起こす。

 主人公たちには人生の中で大それた反抗を行ったり、大ロマンスを経験したり、世俗的な成功を収めたような経験は無い。かといって失敗しているわけでも無い。やらなければならなかったこと、生きるために必要だったことを坦々とこなしてきただけだ。

 そして「幸せな家庭」という普段は改めて認識することのなかったイメージを、それが危機に直面したときに強く意識する。実はこのイメージ自体が主人公たち(=現代の日本人)を呪縛しているのではないのか?とも言いたくなるのだが、それはさておき・・・。

 「子供といっしょにどこ行こう?」とファミリーカーのコマーシャルが説教・脅迫するように、子供たちと遊んでやらなかったからこんなことになったのか?自分の父だったらどう対応したのだろうか?教育方針が間違っていたのか?いやそもそも教育方針なんてものを持っていたのか?「お手本」(マニュアル)は?

「父親として、こういうときはどんな態度や行動をとるべきか。ドラマや映画やマンガや小説に出てきた父親たちの姿を思い浮かべ、どこにも生身の人間がいないことに気づいて、そういうところがだめなんだよ、と布団の中で頭をかきむしったのだった。」(p114「パンドラ」)

 しかし、トルストイではないが不幸は千差万別であって、作者としては最大公約数をねらわなければ直木賞をとるような小説にはならない。現代の問題・「流行」−イジメ、少年たちの「深夜徘徊」?、万引き、少女の性、「熟年離婚」等−が適度に散りばめられている。お父さん(たち)の会社も社員たちもバブル後の長期不況で元気が無い。

 つまりこれは誰にでも起こりうる(起きている)無数の小事件の典型を描いているのだ。そしてそれが現代でもっとも訴求力のあるメディアであるテレビCMのコピーみたいなものになっていても不思議では無い。

 さて、この作者処方のビタミンF、軽症のかたにはお勧めできますが、もっと深刻な問題を抱えているような人たちにはどうでしょうか?いい意味でも悪い意味でもモデラートな短編集でした。  


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