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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社

2003100008

なかにし礼 てるてる坊主の照子さん 2002 日本 新潮文庫

評者:発起人    評価:7    読了日:2003/10/16    公開日:2003/10/16

戦後日本のサスセス・ストーリーを追体験できる感動と笑いの物語

 

  NHK朝の連続テレビ小説、「てるてる家族」の原作となった、なかにし礼(1938-)の小説である。当初、新聞に連載され、昨年単行本が発売され、今年の夏に文庫化、ドラマは9月29日に始まった。小説は文庫本(上・中・下)で800ページに満たないが、テレビでは半年放送される。

 作者のなかにし礼は、もともと作詞家として大成功を収めた人(「北酒場」、「天使の誘惑」、「今日でお別れ」で3度レコード大賞受賞)で、小説を書き始めたのは1998年から。『長崎ぶらぶら節』(1999)で直木賞(第122回)を受賞している。

 まず小説について−。

 福岡県大牟田市で三井鉱業所J工場に勤める酒井春樹・ミサオ夫妻の間に生まれた照子(1924生まれ)は戦争中、陸軍の経理将校をしていた岩田春夫(1922生まれ)と見合い結婚(1945年)する。

 春夫は大阪府・池田市の生まれで三井信託・本店(大阪)に勤めていたが応召される。香港近くの部隊に配属されたが陸軍経理学校(東京・小平)に入学を許され、卒業後は福岡の俘虜収容所で経理関係の仕事をしていたのだ。結婚した二人は福岡で暮らし始めるがそのうち、終戦。

 池田に戻った二人は戦後の混乱期に立ち向かう。春夫は三井信託に復職するが、ある事件がきっかけになって自分は銀行の仕事に向いていないと考え、退職、俘虜収容所での縁で長崎県佐世保にある米軍基地でパン職人の修行をする。池田に戻るとパン工場を作り(1949)、けっこう成功する。その間二人は春子(1946)、夏子(1947)、秋子(1949)、冬子(1951)の四姉妹をもうける。

 ところがある日、照子はテレビジョンが見られる喫茶店というアイデアにとりつかれてしまう。そして持ち前の行動力で喫茶店「シャトー」を自宅に開店する。(1953)これは大当たりし、照子は今度は大阪の繁華街・梅田にあるスケートリンクにも「シャトー」の支店を出すが、遊びで始めたスケートに春子と夏子に才能があることを気づき、本格的にフィギュアスケートを習わせることにする。

 そして・・・?照子は春子と夏子の成功=自分の夢の実現のためにあらゆる努力をするのだが・・・。さて、結果は読んでのお楽しみ。戦後復興期から高度成長期にかけて(この小説は昭和44年=1969年の大晦日のシーンで幕を下ろしている)多くの日本人が共有していた夢とその実現を読者は再体験することができるのだ。

 とびきり明るく、行動力のある照子と才能と個性にめぐまれた娘たち、堅実で平和主義の春夫が本音と笑いが根付いている大阪を主な舞台に夢をかなえていく。もちろん少々の波瀾や挫折もある。でも照子にとっては(読者にとっても)振り返って見ればすばらしい黄金時代だったのだ。

 照子にとっての神様はいつも大きな行事や節目になることの前に自分で作って軒下に吊るすてるてる坊主であるが、必ずと言っていいほど天気は良くならない。(照子はいわゆる雨女なのだ。)でも、照子はてるてる坊主に願いを込めて自分をそして娘たちをより高い次元に送り出すのである。

 この小説、驚くべきことにモデルとなる一家が存在することを作者は「あとがき」で明かしている。つまり、これは現実にあったことを基にしている。「この・・・小説は、現実を写生したものでなくてはほとんど意味をなさない」とまで作者は言っている。そう、この小説、誰もが知っているほんとうのサクセス・ストーリーなのだ。

<ペンは剣よりも強し、されどカメラはペンよりもさらに強し>

 さて、テレビである。テレビは一回15分、日曜日を除いて毎日あって、NHKのホームページを見ると25週間放送されるから、えーっと、1週間が90分、全部で37.5時間!繰り返しとか歌とかあるからまあざっと8割としても30時間!小説をゆっくり朗読しても30時間ではあまってしまうだろう。

 つまり、この小説のほうは、ヘンな言い方だが、TVドラマにもともと太刀打ちできないのだ。これはちょっと考えてみれば当然のことだ。小説は一般的には作家がひとりで作り上げるものだ。(もちろん、編集者などの出版社の人たちや装丁や挿画などを作る人、書店など流通に携わる人などは必要だが・・・)しかし、TVドラマなどの映像化された作品の場合ははるかに多くの人たちがこの創造に関与している。俳優、脚本、音楽、カメラ、音声等々、素人の私では理解できないほどの多くの人たちが携わってひとつの作品ができあがる。つまり映像化された作品のほうがその原作小説よりおもしろいのは当然である。この原作小説の場合、TVドラマ脚本の梗概であると言い切ってしまってもいいぐらいである。

 この小説が無ければ、このドラマは出来なかっただろうが、ドラマは一、二回見ただけで、照子=浅野ゆう子、春夫=岸谷五朗などの顔を想像することなくこの小説を読むことができなくなるのも事実である。


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