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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社

2003100005

オノレ・ド・バルザック ゴリオ爺さん 1835 フランス 新潮文庫

評者:発起人    評価:9    読了日:2003/10/13    公開日:2003/10/13

娘たちにすべてを捧げた老人の物語−野心に燃える青年の最初の試練の物語でもある

 

  フランス19世紀前半の作家、バルザック(1799-1851)の傑作のひとつ。おそらく現代日本の私たちが接する作家の中でももっとも古い時代に小説という文学形式を意図的に使って自分の生きた時代を描こうとした作家ではなかったかと思う。

 もちろん映画やテレビは無い時代だから読者にリアリティを感じさせるためには過剰なほどの言葉を使う必要がある。いわゆるバルザック的なリアリズムというやつである。この作品においても題名にもなっているゴリオ爺さん、野心家の青年ウージェーヌ・ド・ラスティニヤック、読者に独特の印象を与えるヴォートランなどが住んでいる場所、未亡人ヴォケー夫人の経営するヴォケー館の描写から始まる。

 この場所の描写、そしてそこに住まう人々の描写、これが延々と続く。多くの現代日本の読者はここで投げ出してしまうかもしれない。しかし、ここが我慢のしどころ。少し読み進むと、この小説が設定した1819年のパリの下宿屋、そこに住む人々のさまざまな欲望が今のことのようにしてよみがえってくるのを感じる。

 地方から出てきて出世のため上流社交界に足がかりを掴もうとするウージェーヌの涙ぐましい努力に導かれて読者も華やかな、しかし醜聞、裏切り、打算、虚飾と破産の危機の上を生き抜いているもうひとつのパリに至る。がんばれっ、ウージェーヌとこのあたり思わず応援しちゃいますね。

 さらに読み進むと、ヴォケー館ではさえない安下宿人であるゴリオ爺さんが、社交界の美貌のふたりの夫人、レストー伯爵夫人とニュシンゲン男爵夫人と何か関係があることがわかってくる。他方では正体不明の下宿人、ヴォートランが、悩むウージェーヌに悪巧みを持ちかけるのである。

 涙あり、恋あり、笑いあり、怒りもあればいきづまるサスペンスもある。さすがバルザック、もっと他の作品も読んでみようと思わせる作品でした。結末は読んでのお楽しみですが、私が読んだ新潮文庫版の解説では翻訳した平岡篤頼がバルザックはこの小説あたりから組織的に人物再登場の手法を採用したと書いている。つまり、この小説に出てくる登場人物が他のバルザックの小説にも登場する。スティーヴン・キングなどの小説でおなじみのこの手法、すでにこのまだ小説が青年期だったとも言えるこの時期にバルザックが使っているんですね。

 楽しみだなあ、ウージェーヌの将来!えっ?『従妹ベット』に出ている?読んだんだけど、すっかり忘れてしまってます。まずは再読が必要か?


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