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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社

2003070008

上田和夫 ユダヤ人 1986 日本 講談社現代新書

評者:発起人    評価:6    読了日:2003/07/25    公開日:2003/07/25

ユダヤ人の歴史についての格好の入門書

 

  毎日のように報じられるパレスチナ問題、その背景に第二次世界大戦後建国されたユダヤ人の国イスラエルとアラブ系のパレスチナ人との対立があることぐらいは私も知っていた。

 でも、なんでユダヤ人はあんなややこしそうなところに国を作り、維持しているのか?うーん、この本によると紀元70年(!)のローマ帝国との戦い(ユダヤ戦争)によるエルサレムの「第二神殿」の破壊(というからにはさらに以前には第一神殿があり、それは紀元前10世紀にソロモン王の時代に建造され、紀元前586年にバビロニアによって破壊された)以降、ユダヤ人にとって長い離散(ディアスポラ)の歴史が始まる。(実はこのディアスポラも最初のものではなく、旧約聖書で有名なカナンからエジプトへそして再びエジプトからカナンへの歴史がある!)

 イスラム支配下のスペイン、キリスト教支配下の欧州、そしてロシア・東欧でとユダヤ人たちは基本的にかれらの宗教的戒律を守りながら故郷の地を離れて暮らす。各社会・時代によって支配的権力・多数派の民衆との関係はさまざまであったし、特にフランス革命後の欧州では人権思想によってすくなくとも法的な差別は解消される。

 にもかかわらずユダヤ人嫌いは過去ほどではないにしても現代においても生き残っている。(ナチスによるユダヤ人絶滅政策=ホロコーストはそれ以前の反ユダヤ感情とは違うと著者は指摘している。)これについて著者はさまざまな角度から分析を加えている。

 たとえばユダヤ人につきまとう「高利貸し」(『ヴェニスの商人』のシャイロック)、あるいはその変種とも言える「国際金融資本」(ロスチャイルド家)のイメージ。これらは中世において基本的な産業であった農業への従事や定住を禁ぜられたためにユダヤ人たちは金融業でもやるほかなかったのだという点が指摘されている。

 またユダヤ人には世界に大きな影響を与えた学者や思想家(たとえば、マルクスフロイト、アインシュタインなど)を輩出しているが、これにはユダヤ人社会における教育熱心や都市に居住する傾向が高かったことが関連していることなどが指摘されているし、キリストを十字架にかけたのはユダヤ人であったという指摘にも、しかしこの受難がなければキリストはキリストたりえなかったとも答えている。

 重要なことは、イスラエルを建国した思想的背景となったシオニズム(=ディアスポラの状態を現実に解消する)を追求したユダヤ人もいれば、むしろそのような民族主義自体を乗り越えていく道を選んだ(選んでいる)ユダヤ人も数多く存在するということだと思う。

 歴史は重い。しかし、こうしたユダヤ人の受難と迫害の歴史からどういう教訓を引き出すのかは読む人によって異なるはずだ。守るべきは、武力に守られたイスラエルという国家なのか?父祖(2千年前)の土地なのか?神との「契約」の遵守なのか?それとも、ユダヤ人から特定の宗派や言語にかかわりのない人間一般への道なのか?答えは簡単では無い。しかし、われわれ日本人にも同種の問題が問われているのは間違い無い。

 ユダヤ人をそしてそれを通じて歴史を考えたい人には格好の一冊。


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