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著者 書名 刊行年 刊行国 出版社

2003070005

横山秀夫 陰の季節 1998 日本 文春文庫

評者:発起人    評価:8    読了日:2003/07/16    公開日:2003/07/16

警察という組織と人間としての警察官の葛藤を描く−ちょっと甘い気もするが・・・。

 

  横山秀夫(1957-)の(実質的)デビュー作品集。表題作(第5回松本清張賞受賞)のほか、「地の声」、「黒い線」、「鞄」の4篇を収録している。

 舞台はD県警本部警務部、全篇を通じて顔を出す県警の「エース」(ノン・キャリ組の昇進トップ)警務部警務課調査官の二渡(ふたわたり)をはじめ主要登場人物はいずれも警察官である。しかも、「陰の季節」で主役を務める二渡、「地の声」の監察課監察官・新堂、「黒い線」の警務課婦警担当係長・七尾友子、「鞄」の秘書課(県議会担当)課長補佐・柘植とすべての主役は警務部、一般の企業で言う総務・人事・管理部門で働いている。

 一般の企業でもそうであるように、いや警察組織であるがゆえにいっそうこの管理部門=警務部の役割と権限は大きい。

 「陰の季節」では、定期人事異動で退任する予定の天下り先の元刑事部長が退任を拒否し、次に天下る予定の防犯部長の行き先が宙に浮く。「地の声」ではQ警察署の生活安全課長の女性関係をめぐるタレコミが届く。「黒い線」では前日お手柄を立てたばかりのいわばスター婦警が無断欠勤する。「鞄」では有力県議が警察関係の爆弾質問を行うらしいがその内容がまったくつかめない。

 いずれも警察という組織にとっては大きなマイナスになりかねない事件である。そして警務部(管理部門)の警官たちは、これらのトラブルを上手に処理しない限り、評価されない=出世の道が閉ざされる。各篇の主人公たちは警察という組織を守るためにあらゆる知恵・手段を使って闘う。それぞれに驚愕の結末と論理的な謎解きが用意されていて、登場人物たちの想い・感情・正義感も、実現されるされないにかかわらず巧みに表現されている。文章は明晰で読みやすい。警察組織の持つ矛盾や無能な幹部、都合の悪いことを隠蔽するムラ体質なども大上段に悲憤慷慨するのではなく淡々と描かれている。

 でもね、D県警はこれでいいかもしれないけど、現実の警察はもっと壊れちゃってるんじゃないの?と思わせる昨今の不祥事の続発を考えると、この作品の警察官たちは超スグレモノのように思われる。この意味では「こちら本池上署」のような警察PR番組ほどではないけれど、作家として自己規制とか働いてなかったか?と問わざるを得ない。


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